「泉、」
「ん?」
「好きだよ」
「…は?」
突然、彼女は呟いた。俺の耳に届くようにはっきりとした口調で。俺は課題のプリントを終わらせることに必死だったからまったく彼女の事を気にしていなかった。目の前に座っていたのに気にかけないというのはどうかとも思ったが。
「(え、なに、なんで)」
とにかく俺の頭の中には疑問詞がいっぱい浮かんでて、イマイチ状況が掴めていない。でも、頭に浮かぶ疑問詞を言葉にすることも出来ない。珍しく動揺してしまってぱっと頭に浮かんだ言葉を口にした。
「罰ゲーム?」
「は?」
彼女は酷く驚いた顔で俺を見つめた。怒っているような、今にも泣きだしそうな、不思議な表情だった。でもよく考えてみれば当たり前の反応だと思う。このときの俺はそんな事を考える余裕もなかったけど。彼女はさっきの半分くらいの音量で「…最低」と呟いた。それを聞いて俺はやっと彼女の言葉の意味をはっきり理解した。
「そんな風にしか思ってくれないなら、もういい」
がたっと大きく椅子を揺らして立ち上がった。彼女の目からは大粒の涙が零れていた。俺は慌てて立ち上がり彼女の腕を掴む。引き離そうと彼女は腕に力を入れるが、力で彼女が俺に勝てるわけがない。
「っ、離し、て!!」
「嫌だ」
「離してよ!私の告白そんな風にしかっ」
暴れる彼女を力で押さえつけ、唇を重ねる。謝罪の気持ちと愛情を込めて。
「ごめん、からかわれてんのかと思った」
「馬鹿」
少し頬を膨らませてこちらを見つめてくる彼女は可愛かった。俺があまり感じたことのない感情。ああ、これが恋なんだと気付いたときには彼女は俺の前で笑ってくれていて。あとはたった一言、この言葉を言えば…。
「好きだ」
「私も、孝介が好き」
先の見えない恋愛事情
(一分一秒後には何かが変わるかもしれない)
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