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je vais choisir(こへにょ竹)

「七松先輩、早く来ないかな…」
公園のベンチに腰掛けた竹谷は一人、七松が来るのを待っていた。息をふう、とはくと、目に見えるほど白くなって光に反射してきらきらと輝いていた。冷えるなぁ、と思いながら、ちらりと腕時計を見る。時計の針は11時を指していた。七松はたいてい待ち合わせ時間の数分後に来る。竹谷は鞄から鏡を取り出し、乱れた所がないかチェックをした。化粧も三郎に言われた通りちゃんとしたし、七松がシンプルなのが好みだと言ってたからシンプルな服にした。唇にリップクリームを軽くつけて、櫛で髪を梳かして準備完了。あとは七松が来るのを待つだけだ。
両手で数え切れないほどたくさん七松とデートしたはずなのに、いつになっても胸の高鳴りを止めることが出来ない。今日はどこに行こうか、何を食べようか。色々考えていると、七松が駆け足で手を振りながらやって来た。
「おーい、竹谷!」
「七松先輩!」
ぱっとベンチから立ち上がり、少し短めのチェックのスカートを軽く叩く。七松は待たせたな、と言って竹谷を抱きしめた。突然のことに竹谷は頬をほんのりと赤く染めながらも、恥ずかしげに七松の背中にぎゅっと腕をまわした。
「先輩…ここ、公園なんですけど」
「どこだっていいだろ?私はお前を抱きしめたいから抱きしめたんだ。それに…もっと恥ずかしいことしてるだろ」
七松はにっこり笑って優しく竹谷の髪を撫でる。竹谷はこれ以上無いくらいに顔を真っ赤にさせて七松の胸に顔を埋めた。竹谷の動作に、七松は可愛い、と呟いて軽く額に唇を寄せた。ぱっと顔を上げた竹谷の胸元を見て七松は軽く微笑んだ。
「竹谷、つけてやる」
「…はいっ」
竹谷はポケットからネックレスを取り出すと七松に渡した。このネックレスは七松と付き合って初めてのデートで七松が買ってくれたものだ。嬉しくて自分で付けることが出来ないという竹谷のために、七松が逢瀬の度に毎回付けている。長い髪を持ち上げ、ネックレスをつける。胸元で日の光に反射して光るネックレスが綺麗に輝いていた。七松は満足したのか、再度竹谷の額に唇を寄せた。
「竹谷、今日はどうする?」
「あ、前に先輩がおいしいって言ってた、たこ焼きが食べたいです…」
スカートをぎゅっと握りしめて上目でちらりと七松を見つめる。七松は少し考えて、ポケットを裏返しにすると何も入ってないことを竹谷に確認させた。
「金がないけどいいか?」
「いいですよ、たこ焼きぐらい奢りますから。…先輩、今日何持ってきたんですか?」
「おお、悪いな。竹谷がいればいいかなって思って何も持ってきてないぞ」
もう!っと竹谷は頬を膨らませて足を進めると、七松は笑いながら謝った。七松の男らしい、たくましい指がそっと竹谷の細い指を絡めとった。所謂恋人繋ぎというやつだ。寒さのせいで冷えていた手がだんだんと熱を持ちはじめ、暖かくなってきた。
「行こうか、竹谷」
竹谷は黙って静かに首を縦に振ると、竹谷の歩幅に合わせてゆっくり歩く七松の横を歩いた。
歩きながら二人で一日の報告をしたりと、他愛のない話をしていた。ふと竹谷は七松の「金がない」という言葉を思い出した。月末になると必ず七松が発する言葉である。竹谷は少し気になって七松に聞いた。
「そういえば七松先輩、いつも月末になるとお金ないって言ってますけど…」
「気付いたら無くなってるんだよなー」
明日から飯どうするかな、とまるで他人事のように言う七松に、竹谷はおずおずと口を開いた。
「あ、あの…私が作りましょうか?」
ぴたりと歩くことを止め、ぽかんと口を開けて竹谷を見る。言わなきゃ良かった、と後悔してぎゅっと目を閉じた。その瞬間、腕を引っ張られて抱きしめられた。人目がある場所にいるせいで多くの人が七松と竹谷を見ている。恥ずかしいとか嬉しいとか、色んな感情が混ざって竹谷は混乱していた。
「なな、七松先輩…!」
「すっげー嬉しい!」
思いがけない七松の答えに、ふぇ、と小さく声を出した。少しかさついた骨太の指で頬を撫でられる。
「竹谷が飯作ってくれるんだろ?」
「め、迷惑じゃなければ…」
「迷惑な訳ないだろ?私は竹谷の料理が好きだからな!…料理を作ってくれるってことは泊まりに来るってことか?嬉しいぞ!」
これ以上ないほどに笑顔で、更に強く抱きしめた。たくましい胸板に身体を預け、竹谷は小さく微笑んだ。

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