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11月合同
竹谷の視界には普段見慣れた天井が広がっていた。浅い呼吸を繰り返して何がなんだか分からずに腹筋だけの力で状態を起こした。周りを見渡すと、何も変わらない、普段通りの自分の部屋だった。
(夢、か……)
竹谷は深い溜息をついていまだけたたましく鳴っている目覚まし時計を止め、ベッドに倒れ込んだ。乱れた布団を行儀悪く足で退かして天井をじっと見つめた。
七松先輩に嫌われる夢。今一番恐ろしいことがあんな現実みたいに夢で現れるなんて。
胸に手をあてなくても分かるぐらい、どくんどくんと煩く鼓動が鳴り響く。竹谷はもう一度深呼吸をしてベッドから降りた。一抹の不安を抱えながらも、竹谷は学校に行くためにゆっくりと準備を始めた。

頬を撫でる風がひどく冷たい。息をふっと吐くと目に見えるほど白くなって光に反射してきらきら輝いていた。今日は一段と冷えるなぁ、と思いながらマフラーを巻き直す。寒さに我慢出来ず、ポケットに突っ込んだ手がじんじんと痛くなった。竹谷がふと顔を上げると、七松との待ち合わせ場所である自動販売機前にいた。天気予報で朝は冷えると言われているのに、寒さなんてものを感じないのかマフラー一つもしないで竹谷を待ってくれているはずの人が今日はいない。
(そうか、今日は試験日だって言ってたんだっけ)
竹谷は七松の勉強している姿をずっと近くで見てきたから、七松がどれだけ希望する大学に入りたいかよく理解していた。灰色の空を見上げ、ほぅ、と息をはいた。寒い風に吹かれながら竹谷は真っすぐ通学路を歩いて行った。

珍しく一人で登校したせいか、何となくいつもの通学路が長く感じた。普段なら他愛ない話をしているとすぐ学校に着いてしまって、七松と玄関口で別れるのが名残惜しくてもっと一緒にいたいと思ってしまうのに。うっすらと地面に一人寂しく映る自分の影を見ては溜息をつく。今日に限っては仲良く並んで地面に映る二人分の影が羨ましく思えた。
玄関口で靴を履き変えて一歩校舎の中に入ると先輩達がいる時と違って騒がしさは全くなかった。毎朝見る騒がしい光景がいつの間にか竹谷にとって自然と当たり前のことになっていたらしい。あのうるさい喧嘩声も校舎内バレーする激しい音も何も聞こえない。聞こえるのは安っぽいイヤホンから聞こえる音洩れの音だけだった。違和感を感じながらも、普段より大きく鳴る始業のチャイムに竹谷は教室まで足を急がせた。

教師が何やらよく分からない問題を解説する呪文みたいな声と、黒板にチョークが当たる音が混じり合って耳に入ってはすぐに抜けていく。竹谷はちらりと窓から校庭を覗いた。夏まではあんなに青々と茂っていた葉も、もう枯れてどこかに飛んでいってしまった。
(時間が経つのは早いな…。七松先輩が卒業するなんてまだまだ先だと思ってたのに)


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あきゅろす。
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