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獣医ぱろ(五忍囃子9月5日)

ある町に小さな動物病院があった。その動物病院は院長の七松小平太、助手の竹谷八左ヱ門の二人だけで切り盛りしていた。小さいながらもそれなりに病院は忙しく毎日を送っていた。
動物病院の朝は早い。助手の竹谷は七松より早く病院に向かい、掃除と簡単な雑務を行う。それから病院内の受付に置いてある予約票を手に取り今日一日の予定を確認する。暫くして出勤してきた、診察室で欠伸をしながらゆっくりと白衣を身に纏う七松に竹谷は一日の予定を伝えるべく声をかける。
「七松先生、今日は手術が二つ入ってるんで急いでくださいね」
「おー」
七松が歯磨きをして身支度を整えてる間、竹谷は服を着替えて入口の「Close」と書かれた木の札をひっくり返した。これで準備万端。あと十分もしないうちに大勢の患者でこの小さな病院内はいっぱいになるだろう。竹谷はぐっ、と背伸びをして中に入ると、少し寝癖のついた髪をかきながら七松がぺたぺたとスリッパを鳴らして竹谷の元に歩いてきた。
「今日も竹谷は元気だな〜」
「元気じゃないと患者さんたちに心配かけますからね。…先生、ちゃんとご飯食べました?」
「冷蔵庫にキャベツしかなくてな、何も食べてないぞ!」
「そう言うと思いました…。余ったもので弁当作ってきたんで食べてください」
はぁ、とため息をついて竹谷が自分の鞄を指差す。七松は瞳をきらきら輝かせて竹谷の鞄を漁った。猫のイラストが描かれた、可愛いらしい布に包まれた弁当箱を取り出し、いそいそと包みを開けた。
「おお、私の好きな生姜焼きじゃないか!うまそー!」
七松はいただきます!と手を合わせて大きな声で言うと綺麗に彩られた弁当に箸を伸ばした。
「もう時間ないんでなるべく早めに食べてくださいね。あ、でもちゃんと噛んでくださいよ!」
水筒に入った冷茶を七松専用のカップに注ぎ、テーブルに置いた。七松は「竹谷は母親みたいだな」とにっこり笑って冷茶をごくごく喉を鳴らして飲んだ。竹谷は苦笑して「食べ終わったら仕舞っといてくださいね」と言い残し、受付に置いてある椅子に腰掛けた。
(母親みたい、か。俺は母親じゃなくて七松先生の恋人になりたいよ)
竹谷と七松の出会いは大学時代に遡る。幼い頃から動物が好きで獣医を目指していた竹谷は一生懸命勉強して獣医の登竜門と呼ばれる大学に受かった。入学して初めての講義で階段に躓いて転んで、教科書やら筆箱やら派手にぶちまけた。あまりのことに慌てていた竹谷に「大丈夫か」と手を差し延べてくれたのが七松だった。


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あきゅろす。
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