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軍隊ぱろ(五忍囃子9月5日)

嘘だと思った。こんなことあってたまるか。今すぐその瞼を開けて私を見てもう一度笑ってくれ。なぁ、あの笑顔をもう一度私に見せてくれ。






西暦で数えてどのくらいだろうか、かつて繁栄していた日本はある事件をきっかけに他国の手に落ち、旧日本と呼ばれ、過去の栄光とされ衰退していった。そんな日本に絶滅した大勢の人間は過去の栄光ある日本を取り戻そうと今の堕ちた国を壊すために反乱を始めた。国家は反乱を止めるために軍隊を派遣したが、反乱軍に世界最大の国が背後についたため難航した。国家の後ろ盾は反乱軍の後ろ盾と敵対する国であるために国家は紛争を終結させることが出来ない。日に日に激しくなる国内紛争により、国家は国民を年齢を問わず強制的に戦場に送り出した。それによって紛争はどんどん深刻化していき、あげくのはてには反乱軍は強大な力を持ち、国家を圧迫していった。国家は衰退していったが白旗をあげることが出来ないために紛争は長く続いた。


コツコツと軍靴を鳴らし、一人の青年が閑静な廊下を歩く。各所に設置された監視カメラが青年の全身を隈なく映し、コンピューターに登録された情報と照らし合わせる。本人だと認識をすると共に、厳重に封鎖されていたドアが開いた。部屋の中には、数人の上位階級の士官・下士官が並んでいた。その中で高級な椅子に腰掛けた、ガタイのいい中年大佐が苛ついた表情で青年をぎろりと睨み付けた。
「状況はどうだ」
「芳しくないです、報告によると反乱軍にB拠点を征服されました」
「何をしてるんだ弱卒共!こうも簡単に拠点を渡して何をしてる?!」
「申し訳ありません。以後対処します」
「下がれ、拠点一つ守れない弱卒共に何も言うことはない!」
「はい」
青年は敬礼をして部屋から出た。重苦しいドアが閉めた途端、ずるずると壁に身体を預けながら腰を下ろした。被っていた軍帽子をとり、がしがしと頭を掻きむしる。
「あ゙ー疲れた……」
「お疲れ様です、七松先輩」
声のした方に顔を向けると、そこには一つ下の久々知兵助が立っていた。青年――、七松小平太は溜息をつきながら持っていた軍帽子を久々知に投げた。久々知はそれを受け止めて軽く掃う。
「全く…こうしないとどれだけの兵が死ぬかわかってるのか、あの大佐は」
「分かってないでしょうね。最近、反乱軍に圧され気味ですから」
「焦ってんだろうな」
小平太ははぁ、と再度溜息をついて久々知から軍帽子を受け取った。軍帽子を被り直してゆっくりと立ち上がる。久々知はあ、と呟き、七松に耳打ちした。
「竹谷が怪我したそうです」
「……なんだと?」
久々知の一言に七松は顔を歪めると早足で医務室に向かった。久々知はその七松の後ろ姿をただ見ていた。


「竹谷!」
「あ、七松先輩」
医務室に入ると簡易ベッドに横たわった竹谷がいた。腕に包帯を巻いた姿が痛々しい。七松はパイプ椅子に腰かけて竹谷の少し痛んだ髪を優しく撫でる。
「大丈夫か?」
「平気です、少し掠めただけですから。先輩、遠征お疲れ様でした。怪我とかしてませんか?」
「ああ、今回は司令だったからな。戦場には出てない」
「良かった、先輩は俺と違って必要とされてるんですから」
力無く笑う竹谷に、七松は苦痛の顔を浮かべた。何も話さず、そっと竹谷の頬を愛撫する。それが気持ちいいのか、竹谷は目を綴じてすぐに眠りに入った。すーすーと寝息をたてる竹谷の顔を見て安心した七松は、静かに部屋から出ていった。


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