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蓮華





幸刃様より





蓮二がデータを整理している。
 俺は部誌を書いている。
 他の部員は既に帰った。


 いつもの事。
 いつもの風景。


 俺が落ち着かないのは昨日見た夢のせいだろう。


 夢の中で口づけを交わした。
 熱く。深く。
 目が醒めても自分の唇が気になって仕方ない。


 俺と蓮二は付き合っている。
 付き合って何ヶ月かになるがそういった事になった事は無い。


 いつの間にか一緒にいるのが当たり前になって、どうといったこともなく恋人になった。


 確かに俺は蓮二が好きだ。
 蓮二も『好きだ』と言ってくれる。
 だから、少しぐらいこういったことを考えてもいいだろう。


 「どうした?」
 手を止めたままの俺を訝しく思ったのだろう、近くまでくる。


 「いや、何でもない」
 「何でもない事は無いだろう。そんな顔をして」
 顔?
 「顔が赤い。熱でもあるのか?」
 蓮二の冷たい手がおでこに触れて、そのまま頬に触れてくる。
 熱くなった俺にはとても心地好い。
 頬に触れている蓮二の右手に俺の手を添える。


 「…弦一郎…離れろ…」
 何故そんなに苦しそうな声を出す?
 「蓮二…」
 「手を離せ、弦一郎」
 何故そんなに泣きそうな顔をする?
 「何故だ?」
 「お前には関係無い」
 「蓮二、俺は何かしたのか?最近俺を避けている節があるのだが…不手際があるのならば謝る。が、理由がわからん」
 「違う。弦一郎は悪くない。…ただ、俺が逃げているだけだ」
 「何から?」
 「…」


 蓮二の為に何かをしたいと思うのは常。
 出会ってから恋に堕ちて、今いるこの時点までと、これから先ずっと。


 「蓮二、俺では役に立てないのか?」
 「違う」
 「ではせめて何か言ってくれ」
 何時だってお前は一番大切な事を隠したがる。
 「弦一郎、俺は…」


 「――ん!?」
 唇が塞がれる。
 「弦一郎は怖くないのか?」
 「……く、口づけがか…?」
 「あぁ」
 「驚いたが怖いとは思わなかったな」
 寧ろ嬉しいがと言えば、欝すらと目が開く。
 いつ見ても、何度見ても蓮二の瞳は美しいと思う。


 「…俺は怖い。お前とこの先もっと深い関係になるのが、怖い」
 「怖い、か。俺は怖いとは思わなかった。蓮二だからだろうな」


 紛れも無く俺が恋した人。
 心から愛しいと思える人だ。
 この気持ちに嘘偽りは無い。
 一般的に普通で無いとしても、
 これは変わらない。


 「蓮二は何を恐れる?」
 男に触れる事か?
 俺を好きになった事か?
 それとも世間か?


 引き寄せられる。
 身長差は1cmしかないのに、蓮二の胸にすっぽりと嵌まってしまう。


 「お前を失うのが一番怖い」
 お前の気持ちを知るまでは、この気持ちが知られれば気持ち悪いと言われるのではなたいかと恐れた。
 今は、お前と一緒にいるのに関わらず、触れたら逃げてしまうのではないかと、思った。


 「そんな事が有るはず無いだろう。お前のデータを見れば一目瞭然だ」
 「お前を好きになった時点で、お前に関するデータは当てにならなくなった」
 「そうか…」
 だがデータなど無くてもこの想いはお前に通じているのではないか?


 「蓮二。俺はお前が好きだ」
 「あぁ、俺も好きだ。弦一郎」
 「俺はお前に触れたいと思し、お前に触れて欲しいとも思う。それだけでは駄目か?」
 「フッ。そうだな…。俺もそうだ。それだけで良いのだろう…」
 「そうか」
 「あぁ」


 これでいい。
 誰に何と言われようが、これでいい。


 「弦一郎」
 「何だ?」
 「帰るか」
 「あぁ」





帰りは暗いから、手ぐらいは繋げるんじゃないだろうか。
別れ際には、
「また明日」と
言いながら。
もう一度口づけでも交わそうか。





蓮二と弦一郎


お前と歩く帰り道


あきゅろす。
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