緑の絨毯の上で
雪どけ水様より
ふわり、と花の匂いがする。
桃色のイメージが頭に浮かび、そして消えた。
緑の絨毯の上から匂いを辿り、ふわふわと歩いて一輪の花の前で座ると目を瞑ると、花が自分を優しい香りで包みこんでくれた。
ルチアは胸の前で手を組んで、感謝の気持ちを想う。
「ありがとう」
その言葉が嬉しいのか、風がいたずらをしたのか、花は揺れた。
その様子は薄い桃色の唇を喜びの形に変え、彼を見るもの全てを幸せにした。
「ここに居たのか」
「ガナッシュ」
いつの間に後ろにいたガナッシュは、ルチアの隣に座る。
「何を見ていたんだ?」
ガナッシュの隣が嬉しいのかルチアの笑顔は止まらずに、ずっとニコニコしている。
「お花さんたち」
愛しく見ると、ルチアが花の横に寝転がって軽く微笑むと、花も揺れた。
「ありがとうって、伝えてたの」
軽く手をやると、花はピンと元気になる。
「じゃあ、オレも言わないとな」
その様子を見、ガナッシュもルチアと向かい合わせになるように、花を間に入れて寝転んだ。
「どうして?」
首を傾げ、向かいのガナッシュに聞くルチア。
困った顔もまた、可愛らしくて。
ガナッシュはルチアの小さな手を自分の手で包みこむと、微笑んだ。
「ルチアの笑顔を見せてくれたから」
ガナッシュの笑顔が格好良かったからか、言葉に照れたのか、ルチアもまた微笑んだ。
「ありがとう」
ほんのり、顔が赤かった。
クスッと笑うと、ルチアの頬にそっと手をガナッシュはやる。
「ルチア」
同時にルチアの頬を気に入っていた花びらが、ひらりと逃げ出した。
「なあに?」
ルチアは、ゆっくりと、優しくガナッシュからかけられる言葉が好きで、ずっとガナッシュと一緒に温まりたいと思った。
「寒くなる前に学校に戻ろうか?」
触れた箇所が何処か熱くて、
「うん」
でも絶対に離したくなくて。
「…もう少し話そう?」
だからいつもとは違って、彼に我が儘を言ってみる。
少し驚きながらも仕方ないなと起き上がるのを見ると、ルチアは隣に行って彼の肩に軽く頭を乗せた。ガナッシュはそんなルチアを、優しく抱きよせてくれた。
ルチアはその温かさに甘えて、軽く目を閉じた。
そしてしばらく時間が経ったのだろう。
先程よりも風が強くなってきた。
彼に風邪でもひかせたら色々な意味で大変だ。
自分の隣にいる少年に小さく問い掛ける。
「ルチア」
しばらく待つが、返事は無い。
「ルチア?」
バランスを崩させてはいけない、と思い、ずっと花畑や空を見ていたガナッシュは、首を動かしてルチアを見ると、溜め息をついた。
彼は、自分の隣ですやすやと眠っていたからだ。
寝顔は誰もが可愛いというが、ルチアはただでさえ可愛いというのだから、これ以上の幸せはないだろう。
これからも理性が保っていけるのかどうかが不安だ。
しかしこのままだと絶対にミントに殺られる。
ガナッシュはルチアをあまり動かさないように体制を整え、そっと抱き上げた。
暖房の入っている暖かい教室にガナッシュが入って来たときは、姫が本当に姫様なのだと皆が実感させられた。
本当にお似合いの王子と姫だったから。
一人だけ、ガナッシュ王子を認めないナイトは居たのだが。
080222.
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