start 5 旭は困惑したような顔で俺を見ていた。それもそうだろう、だって旭は話を聞いて欲しかっただけなんだもんな。わかってる、俺自身、困惑している。 ごめん、旭。 そんな顔させたい訳じゃないのに、いつも笑って欲しいと思ってるのに……なんでだろう、弁解の言葉が出て来ない。 「………こうさん、」 痛い程の沈黙を破ったのは旭。 「な、んだよ……」 「こうさん、あのね―――」 何かを言おうとしていた言葉を遮ったのは、滅多に鳴らない俺の携帯。 俺は慌てて誰から掛かってきたのか確認する。 ―――――涼也だ。 俺は旭から離れて台所へと移動した。旭には、セフレとも言える涼也の存在を知られたくなかったから…… 「なんの用だよ、涼也」 必然的に声が小さくなる。 『なんだ? ご機嫌斜めだな』 くつくつと涼也の笑い声が電話越しから耳元に響く。 「うっさい、用件を言えよ」 『本当に機嫌悪いな。…まぁいい、今からオレの家に来いよ』 「はぁ?! 今からぁ?!」 思わず荒げた声を再び抑え問う。 「いきなり……何だよ」 『……別に、逢いたくなっただけだ。―――来るのか来ないのか、早く決めろ』 ふてぶてしく言い放つ涼也に思わず苦笑した。 だけど逢いたい、だなんて殊勝な事も言えるんだと思うと少し可笑しい。 それに、この苦痛にすら感じる部屋から出て行ける。そんな風に考えてしまったんだ。 俺はわざと大袈裟にため息を付いた。 「仕方ないから、行ってやるよ」 『……そうか』 酷く、安堵した声が涼也から洩れたのが解った。それが涼也らしくなくて、俺は再び問い掛けた。 「なぁ、本当にお前、どおした――」 『じゃあ、待っているからな』 問いは答えられないまま、ぷつりと通話が切れそのまま無機質な音が響きわたる。そんな状態に俺は、眉をひそめたまま携帯を閉じた。 [*前][次#] [戻る] |