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鼻をもグスグスやりながら部屋の前に来た俺は、異変に気付く。


「鍵が、開いてる……」


一瞬、掛け忘れたかと思ったがそうではない。
そっと開いた扉の隙間から旭の靴が見えたからだ。


「あ、旭っ?!」


慌てて靴を投げ捨て半端転がりながら部屋に入ると、エプロンを付けて台所で作業をしている旭がいた。


「あ、こうさん、おかえりー」

「旭……」


笑顔で何時もの、変わらない旭の声にほっとした俺は、また涙腺が緩むのを感じた。


「…てめぇ、連絡しても返して来ないって……どういうつもりだよっ!!」


本当は怒ってなんてなかったんだけど、潤んだ瞳を誤魔化す為に出た言葉は怒気を含んでいて、内心自分でも驚いていた。
だけど、出した言葉は戻らない。それに……俺は本当は怒ってたのかもしれない。
悲しくて悲しくて、辛くて辛くて、死にそうな気持ちで過ごして来た日々。それがほっとした瞬間、気付かない内に怒りに変わっていたのだろう。

旭はそんな俺に気付いたのか、しゅんと眉を下げて謝る。


「うん、ごめんね」

「俺、心配したんだ、ぞ?」

「うん、ありがとう」

「もう……ワケの解らない事、すんなよ……?」


段々声が小さくなる俺。
許すとか許さないとかの気持ちは無かった。もう、充分だった。

旭が俺と会話してくれる。
笑ってくれる。
そばに、居てくれる。

それだけで段々と胸がいっぱいになる位、嬉しい。

鼻の奥がつんと熱くなる。
俺、泣きすぎだろ…
やっぱり潤んでくる瞳を見られないように視線を床へと落とす。


「こうさん……俺、すげーこうさん抱き締めたい…」

「ば、ばかっ!!何言ってんだよっ!!」

「うん、ホント俺バカでさー…こんなチャンスなのにこうさん抱き締められないの」

「?」


何言っちゃってんの、こいつ。と赤面しながら旭を見てみると大きめのボゥルに片手を突っ込み、中身をぐちゃぐちゃと意味なくかき混ぜていた。


「俺の手、今肉だらけだから、さ……」


そう言い見せてくれた手のひらは確かに挽き肉だらけで、オマケに旭はかっこいい顔を歪めた情けない表情。
俺は思わず吹き出すように笑ってしまった。

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