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『こうさん、遅くなるんだ』
「う、うん」


やけに旭の声色が硬質的に聞こえるのは、罪悪感のせいか。
俺はじっとりと手のひらに汗をかいているのに気付く。


『じゃ、俺、こうさん家で待ってるねー』
「えっ」
『ダメ?明日授業午後からだし……泊まらせて欲しいんだけどー』


ダメ、じゃない。
嬉しい。
………けど。


「何時に帰って来るかわからないぞ」
『ん、待ってるよー』
「酔っ払って、吐きまくりかもしんないぞ」
『えっ、だったら余計に俺居た方がいいじゃん。っていうか、明日も仕事なんだから飲み過ぎはダメだよー』
「……………」


何だかイライラした。
俺は旭を諦めたいのに、そんな事されたら期待しちゃうじゃないか。


旭には沙世さんが居るのに―――

心臓がぎゅっと掴まれたように痛い。


「なんで、そこまでするの?」


少し、声が震えた。


「俺と一緒に居たい理由なんて、あるわけ?」
『…り、理由は………、何ていうか……俺っ』


珍しく、旭が言い淀む。


「……旭?」
『俺っ、理由はっ……そのっ』
「うん」
『こうさんがっ……じゃなくてっ!!』
「…………ぷっ」


あたふたしている旭を想像して、少し力が抜けた。


『あっ、こうさん今笑ったでしょー!!』


憤慨する旭に、ケタケタと遠慮無しに笑ってやった。


「だってお前、何言ってんのかわかんねーよ」
『………こうさんのいぢわる……』
「わりぃわりぃ、もう茶化さないから。ほら、落ち着いて言ってみ?」


旭が堪らなく、可愛い。
笑い過ぎて滲んだ涙を拭きながら、優しく聞いてやる。


『……………暇なの』
「暇?」
『皆、バイトやら彼女やらで忙しいとかで、………相手に、してくれなくて』
「そっか、暇なのか」
『そ、……暇なの』


暇なら仕方ない。
沙世さんも、忙しいのだろう。


「………なるべく早く帰るから、な」
『―――うん、待ってるから』


耳元で囁かれてくすぐったい。
もう、涼也の家に行かず帰ってしまおうか。
そんな誘惑に駆られてしまう。

いくら何でもそんな失礼な事は出来ない、けど、すぐに帰ろう。
それも失礼なのだが、そう思わせる程、旭が居る家は魅力的だ。

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