start 7 「はっ……んぁ……な………っ…」 水音が絡む音と洩れ出す俺の声。 初めは抵抗していた俺だが、入ってくる酸素が少ないのと、初めて口内を擦られる感覚に戸惑う。 ……正直に言うと、気持ちいい。 気付けば俺は山形さんに躰を預け、無意識に舌を動かしていた。 それに気付いた山形さんは喉の奥で笑い、くちゅり、と濃いリップ音をたてて俺から離れる。それを追いかけるように、俺の舌は唇からはみ出した。 「……ん、あ……」 「気持ち良いだろ」 コクリと頷いた所で飛んでいた意識が戻る。 「……ちがっ……!! …………山形さん、何でこんな事するの?」 「違う」なんて言っても快感を感じたのは事実だ。そう思って、聞いた。 「からかい?憐れんでる?それとも……ただ、セックスしたいだけかよ?」 まくしたてる俺は何だか滑稽だ。 だけどそれ位、俺は混乱していた。失恋して、今日初めて会った男とのキス。 正直、許容量オーバーだ。 情けない事に、瞳に留めていた涙が流れた。 「泣くな」 指先で優しく目尻を拭かれた。 困った様に眉を下げ機嫌を取るような声色で言葉を紡ごうとする。 「俺はな、忘れさせようと…」 「そんな慈善家には、見えねぇよ!」 俺の辛辣な言葉に何かに詰まった様な、何かに迷う様なそんな顔をした。 「…オレに……お前がオレに見えたんだよ…」 ため息混じりに呟く。 「オレが振られて、……独りで震えて、泣いてる様に……」 「……山形さん……」 「だから…オレがオレを慰めたいから、かな」 悲しそうに笑う。 その表情に俺は、山形さんが俺と同じ叶わぬ恋をしている事をようやく解った。 新たな涙が頬を伝う。 「―――山形さんとすれば、忘れられるかなぁ…?」 「さあな。……けれど、してる間は何も考えられなくしてやるよ」 「………んっ」 耳元でやらしく囁かれる。 今だけでも、数時間だけでも、忘れたいって思った。 これは逃げ?惨めな自己防衛?答えなんて出ない。 ただ、辛くて苦しいんだ。 「…忘れ、させてくれ、よ」 返事の代わりにソファに押し倒され、激しく唇に噛み付かれた。 [*前][次#] [戻る] |