[通常モード] [URL送信]

start


「はっ……んぁ……な………っ…」


水音が絡む音と洩れ出す俺の声。
初めは抵抗していた俺だが、入ってくる酸素が少ないのと、初めて口内を擦られる感覚に戸惑う。


……正直に言うと、気持ちいい。


気付けば俺は山形さんに躰を預け、無意識に舌を動かしていた。
それに気付いた山形さんは喉の奥で笑い、くちゅり、と濃いリップ音をたてて俺から離れる。それを追いかけるように、俺の舌は唇からはみ出した。


「……ん、あ……」
「気持ち良いだろ」


コクリと頷いた所で飛んでいた意識が戻る。


「……ちがっ……!!
…………山形さん、何でこんな事するの?」


「違う」なんて言っても快感を感じたのは事実だ。そう思って、聞いた。


「からかい?憐れんでる?それとも……ただ、セックスしたいだけかよ?」


まくしたてる俺は何だか滑稽だ。
だけどそれ位、俺は混乱していた。失恋して、今日初めて会った男とのキス。
正直、許容量オーバーだ。

情けない事に、瞳に留めていた涙が流れた。


「泣くな」


指先で優しく目尻を拭かれた。
困った様に眉を下げ機嫌を取るような声色で言葉を紡ごうとする。


「俺はな、忘れさせようと…」
「そんな慈善家には、見えねぇよ!」


俺の辛辣な言葉に何かに詰まった様な、何かに迷う様なそんな顔をした。


「…オレに……お前がオレに見えたんだよ…」


ため息混じりに呟く。


「オレが振られて、……独りで震えて、泣いてる様に……」
「……山形さん……」
「だから…オレがオレを慰めたいから、かな」


悲しそうに笑う。
その表情に俺は、山形さんが俺と同じ叶わぬ恋をしている事をようやく解った。
新たな涙が頬を伝う。


「―――山形さんとすれば、忘れられるかなぁ…?」
「さあな。……けれど、してる間は何も考えられなくしてやるよ」
「………んっ」


耳元でやらしく囁かれる。
今だけでも、数時間だけでも、忘れたいって思った。
これは逃げ?惨めな自己防衛?答えなんて出ない。
ただ、辛くて苦しいんだ。



「…忘れ、させてくれ、よ」



返事の代わりにソファに押し倒され、激しく唇に噛み付かれた。

[*前][次#]

7/13ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!