start 9 少し早めに仕事から帰れた俺は、帰宅もそこそこに出掛ける準備をする。 田舎の母親が、荷物を送ってくれたらしいが、最近夜が遅かった為に受け取れてなかった。 いつ帰れるかわからなかった俺は幾度となく電話を掛けてくる運送会社に「取りに行く」と言ったのだ。 面倒臭い。 だが、母親が送ってきたものを無下には出来ない。 ふと、携帯のメールに気付いた。 差出人を見なくても分かる。 旭だ。 何というか、旭以外にはメール相手が居ない。 電話も旭、か、たまに実家のみだ。 『今日、行っていい?』 俺は何時までたっても慣れない指遣いでメールを返信した。 『うん。でもちょっと今から出掛けるから、部屋で待ってて』 『わかった(^O^)/』 直ぐに返ってくる返信に笑みが零れる。 あの後、二人で泣いて泣いて泣いた後、俺は思わず勢いで旭にスペアキーを渡していたんだ。 何かあったら直ぐに来い、いつでも来いって言って。 今思い出すだけで恥ずかしい。 よく渡せたなって思う。 けれど―――どこか安心したような表情で受け取った旭を見て、勇気出して良かったって思った。 そしてあの日から2週間近く経っている。 あの日―――旭が沙世さんに告白してから変わったこと。 しょっちゅう部屋に来る旭。 食欲が減った旭。 笑みが減った旭。 ぼーっとしている事が多くなった旭。 ……見ていて辛い。 沙世さんに何でこんな顔にさせたんだって、お門違いな事を言って責め立てたい。 ………けれど、こんな姿を俺に見せてくれて、少し嬉しい。 きっと時間が心の傷を治してくれるだろう。 その、頼どころに俺の場所を選んでくれたみたいで、嬉しい。 いつか、思い出として、俺と過ごした日々をたまに思い出してくれると、この気持ちも報われるんじゃないかって、思った。 [*前][次#] [戻る] |