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「そういえばさ」

食後のまったりとした時間を過ごしていた。
広くもない部屋、2人してベッドを背もたれにして俺はテレビ、旭は雑誌を見ている。
少しズレると肩が触れ合う距離だ。
このまま肩に頭を…なんて恥ずかしい想像をしている時に声を掛けられた。

「俺の友達に山ちゃんっているんよー」
「山、ちゃん?」

某芸人が脳裏に浮かぶ。

「そいつ、男なんだけどさ、バイなんだって」
「バ……イ…」

心臓が早鐘を打つ。さっきまで適温だったはずの部屋が暑く感じる。

「あ、バイって知ってる?女も男もイケちゃうって奴の事なんだけど…」
「…知ってる…」

それ位、知ってる。とても他人ごととは思えない話だ。
気付かれないように少し息を吐いた。

「山ちゃんさ、今男にハマってて、相手とっかえひっかえしてるんだって」
「…へぇー」
「それがさ、そういう集まりのBARがあるらしくてさ」
「…ふーん」
「あれ?あんまり好きじゃない?」

当たり前だ。いくら好きな相手でも、突っ込んで欲しくない話はごまんとある。
旭は知らないだろうけど、俺はその話をして欲しくない。
その手の話で侮蔑、軽蔑、冗談のネタになんてして欲しくないんだ。

これはちっぽけだろうけど、俺のプライド。

「そんなん、個人の自由だろ…本人の居ない場所で、面白おかしくする話じゃない」

目線をテレビにやりながら話した。
出来るだけ素っ気なく。
でもこれで嫌われたらどうしよう、って思ってドキドキしていた。

「格好いい…」
「………は?」
「こうさん、男前!!惚れるっ!!!」
「は、はぁ〜?」

何言っちゃってんの、こいつ。
思ってもない言葉に俺の顔は赤面していた。

「うん、確かに面白おかしく話す内容じゃないよね。よく考えたら山ちゃんに悪い!」

俺の好きな笑顔が浮かんだ。

「こうさん、言ってくれてありがとう」

何か言おうと思うんだけど、ぱくぱくと口が動くだけで言葉が出ない。
結局「うん」としか言えなかった。

「今度、山ちゃん紹介するねー。俺の幼なじみなんだ」
「…ん、楽しみにしてる」

その時俺は思ったんだ。幼なじみがバイという環境をどう思うのか。
無意識に手を組み合わせてた。じめっとした感触から手に汗をかいている事に気付く。

「その…同性愛者っ…てどう思う?」

口走ってた。口にして後悔、高校の時と一緒じゃないか。

「そりゃ、本人同士がいいんだったらいいんじゃない」

デジャブを感じる。
これで終わりにすればいいと思うのに…一度口にしたら止まらない。傷口を広げるように問い掛ける自分がいた。

「でも…もし、同性がお前の事好きだったら…どう思う?」

旭は腕を組み、上を見上げた。

その間が怖い。

知りたい、知りたくない。
聞きたい、聞きたくない。

矛盾が胸を交差する。心臓が飛び出すのではないのではと心配するくらいの鼓動。

「んー、嬉しい、かな」
「……嬉しい、の?」
「うん、だって好きって凄い事なんだよ。俺見て一喜一憂して、自分の感情をコントロール出来ない。こんな想いを自分に向けられたら嬉しいに決まってるじゃない」

心が震えた。
俺は今、心底旭を好きで良かったって思った。
想いの届かない恋だけど、旭を選んだ俺を褒めたい。

「…っ!!こうさん、何で泣くの?!」

無意識に流れ出した涙。
嬉しくて、だなんて言えない。
形の良い瞳が驚きで大きく見開かれ、口もぽかんと開いている。それでも美形は美形なんだ。何か狡い。

「るせーよ、見んな」
照れ隠しに、涙の止まらない目を擦りそっぽ向こうとした。

グイッと手首を掴まれたかと思うと、そのまま旭の胸の中に俺がいた。

「目、擦ると腫れる…」

何だ、何だよこれ。身体が硬直して動かない。
息を吸い込むごとに旭の付けている香水が仄かに香る。

「見てないから、見ないから」

俺の頭を優しく自分の胸に押し付ける旭。
涙が旭の服に吸い込まれていく。

「泣かないで……」


その声を聴き、身体を弛緩させる。

「泣かないで、こうさん―――」

俺はまだ涙が溢れる眼をゆっくり閉じた。

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あきゅろす。
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