start 2 「そういえばさ」 食後のまったりとした時間を過ごしていた。 広くもない部屋、2人してベッドを背もたれにして俺はテレビ、旭は雑誌を見ている。 少しズレると肩が触れ合う距離だ。 このまま肩に頭を…なんて恥ずかしい想像をしている時に声を掛けられた。 「俺の友達に山ちゃんっているんよー」 「山、ちゃん?」 某芸人が脳裏に浮かぶ。 「そいつ、男なんだけどさ、バイなんだって」 「バ……イ…」 心臓が早鐘を打つ。さっきまで適温だったはずの部屋が暑く感じる。 「あ、バイって知ってる?女も男もイケちゃうって奴の事なんだけど…」 「…知ってる…」 それ位、知ってる。とても他人ごととは思えない話だ。 気付かれないように少し息を吐いた。 「山ちゃんさ、今男にハマってて、相手とっかえひっかえしてるんだって」 「…へぇー」 「それがさ、そういう集まりのBARがあるらしくてさ」 「…ふーん」 「あれ?あんまり好きじゃない?」 当たり前だ。いくら好きな相手でも、突っ込んで欲しくない話はごまんとある。 旭は知らないだろうけど、俺はその話をして欲しくない。 その手の話で侮蔑、軽蔑、冗談のネタになんてして欲しくないんだ。 これはちっぽけだろうけど、俺のプライド。 「そんなん、個人の自由だろ…本人の居ない場所で、面白おかしくする話じゃない」 目線をテレビにやりながら話した。 出来るだけ素っ気なく。 でもこれで嫌われたらどうしよう、って思ってドキドキしていた。 「格好いい…」 「………は?」 「こうさん、男前!!惚れるっ!!!」 「は、はぁ〜?」 何言っちゃってんの、こいつ。 思ってもない言葉に俺の顔は赤面していた。 「うん、確かに面白おかしく話す内容じゃないよね。よく考えたら山ちゃんに悪い!」 俺の好きな笑顔が浮かんだ。 「こうさん、言ってくれてありがとう」 何か言おうと思うんだけど、ぱくぱくと口が動くだけで言葉が出ない。 結局「うん」としか言えなかった。 「今度、山ちゃん紹介するねー。俺の幼なじみなんだ」 「…ん、楽しみにしてる」 その時俺は思ったんだ。幼なじみがバイという環境をどう思うのか。 無意識に手を組み合わせてた。じめっとした感触から手に汗をかいている事に気付く。 「その…同性愛者っ…てどう思う?」 口走ってた。口にして後悔、高校の時と一緒じゃないか。 「そりゃ、本人同士がいいんだったらいいんじゃない」 デジャブを感じる。 これで終わりにすればいいと思うのに…一度口にしたら止まらない。傷口を広げるように問い掛ける自分がいた。 「でも…もし、同性がお前の事好きだったら…どう思う?」 旭は腕を組み、上を見上げた。 その間が怖い。 知りたい、知りたくない。 聞きたい、聞きたくない。 矛盾が胸を交差する。心臓が飛び出すのではないのではと心配するくらいの鼓動。 「んー、嬉しい、かな」 「……嬉しい、の?」 「うん、だって好きって凄い事なんだよ。俺見て一喜一憂して、自分の感情をコントロール出来ない。こんな想いを自分に向けられたら嬉しいに決まってるじゃない」 心が震えた。 俺は今、心底旭を好きで良かったって思った。 想いの届かない恋だけど、旭を選んだ俺を褒めたい。 「…っ!!こうさん、何で泣くの?!」 無意識に流れ出した涙。 嬉しくて、だなんて言えない。 形の良い瞳が驚きで大きく見開かれ、口もぽかんと開いている。それでも美形は美形なんだ。何か狡い。 「るせーよ、見んな」 照れ隠しに、涙の止まらない目を擦りそっぽ向こうとした。 グイッと手首を掴まれたかと思うと、そのまま旭の胸の中に俺がいた。 「目、擦ると腫れる…」 何だ、何だよこれ。身体が硬直して動かない。 息を吸い込むごとに旭の付けている香水が仄かに香る。 「見てないから、見ないから」 俺の頭を優しく自分の胸に押し付ける旭。 涙が旭の服に吸い込まれていく。 「泣かないで……」 その声を聴き、身体を弛緩させる。 「泣かないで、こうさん―――」 俺はまだ涙が溢れる眼をゆっくり閉じた。 [*前][次#] [戻る] |