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◆〜88888HIT CLEAR
10000HIT@-1
(悪魔と天使の絡みと監禁される天使)
>>注意
@-1 暴力表現あり
@-2 ※R18






玄関のチャイムを押す手が震え、このまま家人が出てこなければいいのにとすら思う。

「鍵は開いてる」

私にだけ聞こえる音で冷たく言われ、背中が凍りつく。

(いっそ帰れと言ってくれたら楽なのに…!)

これ以上なく扉が重たく感じ、開く音は絶望を表現しているとさえ思えた。
扉を潜るとと体が沈むほどのプレッシャーが圧し掛かる。
勘違いや思い込みではなく、何もないはずの場所に実際に重みを感じる。

格の違い

よくもまあこの悪魔に喧嘩を売った物だと今なら思う。
重圧に耐え顔を上げると顎でしゃくるように奥へと促される、行きたくないが断れるような雰囲気でもなければ、立場でもない。

「お邪魔します……」

内心ため息をつきながら歓待を受ける事になった。

事の始まりは今日の朝、いるべき人間がいなかった事に起因する。



「真実ちゃんにお願いしようと思ったのにいないのよ。それでね、フェデルタちゃんがお兄ちゃんのお家に荷物届けてくれる?」

そう申し訳なさそうに頼む女性は私の恋人である真実の母で、居候の俺を温かく迎え入れてくれた恩人でもある。
断る理由も無いので2つ返事で引き受けた。
後悔するのはすぐ後に続いた言葉を聞いてからである。

「お兄ちゃんの同居人さんが受け取ってくれるから」

(同居人……ってあの悪魔か!)

悪魔こと「セルヴァ」は以前私が殺そうとして返り討ちにあった相手である。
今はもう殺す気もなければ、逆らう気すらない。
というか能力差が有りすぎて傷1つ負わせる事が出来る気がしない。
逆らえば確実に殺されるし、殺されたら真実と一緒にいられない。
以前なら死などなんでもなかったが、愛する人が出来た今死ぬ気もないし、死にたくもない。

印象最悪なので出来るなら会いたくはないが、1度引き受けた事を断る事も出来ず、現在に至る。



「どうぞ」

仏頂面で香りの良い紅茶を差し出され飲んでいいものか悩むが、軽く頭を下げて口をつける。
品の良い味が舌に、芳醇な香りが口いっぱいに広がっり自然と感嘆のため息が出る。

「美味い……」

思わず口を突いた言葉を興味なさそうに流し、セルヴァも紅茶を口にする。
歓待する気がないのは丸分かりで空気が重い。
荷物も渡したし、さっさと帰ろうと紅茶を飲み干すとカップを置いて立ちあがる。

「それじゃあ私は……」

「時間あるよな」

背筋に冷たいモノが伝う。
いままで生きてきてこんなに生きた心地がしないのは初めてだ。

「付き合え」

立ちあがった悪魔が指で空間をなぞると扉が生まれ、開かれた扉の先には闘技場のような空間が広がっていた。

(これって……処刑とか……?)

逃げ帰りたかったが出来る筈もなく、屠殺場に送られる家畜の気持ちで扉を潜った。



刃を潰されて殺傷力をなくした剣を渡され、コインが落ちたのを皮切りに切り込まれる。
その腕のどこにそんな力があるのかと考えさせられる、とにかく一撃一撃が重いのだ。
そのくせスピードは早く、鋭い。
情けなくも私は防戦一方で攻め込む隙もない。

「弱い」

軽く弾くような仕草で剣を打ち上げられ、腕から剣が外れる。
崩れた体勢の私のすぐ横に剣が突き刺さり、へたり込む。
決して弱くはなかったはずだ。
だが、この力の差はなんなのだろう。
子供と大人という違いではなく、次元が違う。

セルヴァの手が深く突き刺さった剣を乱暴に抜き、私に渡す。

「もう1度」

何の表情もうつさない目は深い怒りを感じさせ、私に拒否権が無い事を伝えてきた。

幾度となく倒れ、幾度となく切られ、幾度となく負けた。
疲労で立ち上がることすら出来ず、セルヴァの攻撃を受け続けた腕は痺れて感覚がない。
仰向けに寝転がる私の顎をつま先で蹴り上げながら見下すセルヴァの表情はまるで、そこらにある石と私はかわらないものだと思っているようだった。
いや、石の方がマシだと思っているだろう。

「弱い」

「……知っている」

繰り返し言われた言葉に初めて言い返す。
分かってる、お前に比べたらずっと弱い。

「お前が真実さんの傍にいるのが不快だ」

はっきりとした拒絶・嫌悪。
だが、もし殺されたとしても譲れないものがある。

「だが私は真実のもので、真実は私のものだ」

きっぱりと言い切ると、顎にあったつま先が喉を思いっきり押しつぶすように抉る。

「ぐ、がっ――……!」

「こんなに弱いくせに所有権を主張するとか、馬鹿じゃないのか?」

息が止まり言葉を発する事も出来ないが、私自身がどうなったってそれを否定させる気はない。
睨みつけると、苛立った表情で私を見下ろす悪魔と目が合う。
つま先に一層の力が加わり、目の前が黒と白で歪む。

「浮気ー?」

不機嫌そうな能天気な声が聞こえたのは自分の願望かと思った。
愛しい、恋人の声。

「ま、真実さん……」

戦闘に気が向いていて真実が来た事に全然気付かなかったが、それはセルヴァも一緒のようだった。
セルヴァが身を引き、喉に空気が流れ込むと思い切り咳き込む。
口から飛んだ唾液に赤い物が混じっていて、息をするだけで痛い。

「有名店のケーキ買いに朝から並んでたんだけど、これおすそ分けー」

真実からセルヴァに渡された箱からいい匂いが漂い、血なまぐささが一瞬和らぐ。
体を支えるように腕をとられ、強引に引っ張り起こされると全身が軋むが、密着した場所から体温が伝わり涙が出そうな位安心する。

「あ、あの……」

「セルヴァ」

「はいっ」

先刻の非道さが嘘のようにオロオロしているセルヴァは、真実の言葉にビクついている。
真実の言葉は正義の言葉の次に絶対らしい。

「ペナルティだね」

「え?」

「指示なく魔力使ったでしょ?」

「……ぁ」

そういえば魔法を使ってここの空間を出していた。

「とりあえず俺の家にも空間繋げる?」

「は、はい……」

ヴゥンと羽音のような音が聞こえ空間が歪むと見慣れた部屋が映し出される。

「ありがと、じゃあ俺達帰るね」

「は、はい」

歪みを潜る瞬間振り返り、

「兄貴にはもう伝えてあるから、お楽しみにね」

満面の笑みとは違って目は笑っていなかった。
セルヴァの息を飲む声だけが耳の残り、私は気を失った。


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あきゅろす。
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