リク7 その2
案内されたディアズ様の部屋は、思っていたよりもずっとシンプルな落ち着いた色合いの部屋で、キョロキョロと辺りを見回した俺の口から自然な感想が漏れた。
「なんか意外」
「何が?」
「もっとこう、赤! 黒! ってイメージの部屋かと思って」
仰々しい、禍々しい、派手派手しい。
俺の中でディアズ様はそんなイメージ。
悪魔なのだからそれも当然だし、彼にはそれが似合っている。
だからさっぱりとした色合いの部屋は何となく拍子抜けしてしまう。
「確かに赤とか黒とか好きだけどな。でも部屋全部がそれだとさすがに疲れる」
「ディアズ様ぐらい強くても疲れるんスね」
「当たり前だろ、だから少しゆっくりさせろ」
「へ? わぁっ?!」
太い腕で身体をグッと持ち上げられ、急な浮遊感に思わずディアズ様の首に腕を回した。
ほそっこい自分とは違う張りのある筋肉を肌に触れた指から感じる。
クッションのいいソファーの上にポスンと落とされ、膝を逆撫でるように指でなぞられると、触手の先まで小刻みに震えた。
くすぐったいのもあるけど、なんか、これ、変に感じてしまいそうで怖い。
「な、なにするんですか……?」
「ひざまくら」
・
・・
・・・
「え、えー……」
意外すぎるディアズ様の言葉にどう反応していいやらわからない。
だってまさか、ひざまくらって、ねぇ?
初々しくて逆に恥ずかしい。
嫌じゃないんだけど、俺、こういうの経験ないもん。
「今日のために結構無理して時間作ったらここ1カ月休みねぇんだもん、ちったぁ労われ」
ディアズ様は俺の背中に手を回して腹にグリグリと頭を擦り、小さな子供みたいな甘え方。
艶やかな光沢の髪の毛を優しくなでると、切れそうな外見に反してやわらかい手触りが心地いい。
失礼な例えだけど、犬っぽい。
「……無理しなくても良かったんスよ?」
「俺が無理しなきゃ会えないじゃねぇか。それに仕事だなんだってあいつと一緒にいる時間の方が多いんだ、ずりぃよなぁ」
自分のテリトリーだからだろうか?
いつもよりもディアズ様はわがままで子供っぽくてなんだか幼い。
誰もが震えあがるほど強くて、怖くて、素晴らしい悪魔なはずなのに、不思議なぐらい俺には可愛らしく見えた。
「お前、もう店には出てないんだろ?」
「あー……、はい。俺は別に今まで通りに仕事しててもいいんですけど」
「よくねぇよ、馬鹿。今更お前が知らない誰かに触られてみろ、俺は間違いなく相手を引きちぎるぞ」
店長も同じような事を言って、店に出る事を禁止した。
俺自身、店での仕事は必要性の高いモノだと思っているので気にしないのだが、2人が強く言うものだから面倒になってしまい従っている。
お給料は今までにちょっと色を付けてもらっているので異論はない。
結局金かと思うかもしれないが、金というのはとても良い理由になる。
俺が2人の為に店での仕事を辞めたなんて少しでも思われたら、俺の身柄はどうなってしまうのか想像するだに恐ろしい。
良くて愛人、最悪2人の嫁だ。
やだ。
「俺の嫁になっちまえばいいのに」
「嫌です」
「なんでだよ、俺の事好きだろ?」
「すっ?!」
嫌いかと聞かれると思いきや、好きだろと来たもんだ。
高慢とすら思えるのに嫌な感じを受けない、揺るぎない自信は非常に彼らしい。
「どこから来るんです、その自信は」
「事実だからな」
ディアズ様の手がスッとまっすぐに伸びて、俺の頬を大きな掌でスリスリと擦った。
手の平から伝わる暖かな温度が肌に心地よく、指が撫でるがままに任せる。
しばらくは意図を測りかねてディアズ様の動きをじっと見つめていたが、時間が経っても変わらないその行動に意味があるとは思えず首を傾げた。
「あの……?」
「ちっと前だったら手を伸ばした瞬間に逃げてた」
「え、……あ」
言われてみればそうだ。
触れられる事に疑問も抱かないし、肌を撫でる指の感触には心地よさすら感じていた。
以前は警戒心バリバリで飲みに誘われたって断っていたし、話しをしていても見えない壁を作っていた気がする。
それなのに今はこんなに自然に受け入れていた。
(え、なにこれ、俺は快楽に流されてるぐらいがちょうどいいんだけど!?)
好きとか困る!
だってこんなにも高慢で我儘で俺様な人好きとか面倒くさい!
「す、好きな理由にはならないじゃないッスか?」
「好きだろ、気持ちいい事」
心の奥を見透かされたようで悔しくて反論しようとする俺の唇を、ディアズ様が指先でピンと弾いた。
「っ、……っは」
ただ少し指で弾かれただけで、痛みを与えるほど強くも、傷をつけるほど酷くもない。
それなのに唇を逆撫でる感触に背筋がゾクゾクと震え、腰がズクンと重くなったのを感じた。
「好きだろ、気持ちいい事してくれる俺の事」
自信満々のディアズ様の視線が俺の意識を絡め取る。
快楽を求めてぼんやりとしていく理性と、なにかを期待して解放される本能。
「……好きですよ、気持ちよくしてくれるディアズ様」
ジンジンと痛み以外の何かで疼く唇をぺろりと舐めた。
「いつか俺自身を好きだと言わせて見せる、絶対な」
挑むような口調で吐き捨てたディアズ様は、俺の首裏を掴んでグッと引き寄せる。
噛みつくようなキスは、本当に食べられてしまいそうなほどで、すごく、
気持ち、いい。
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