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リク7 その1
「よく来てくれたな、歓迎する。この家は別荘みたいなモンだから窮屈だけどゆっくりしていってくれな」

「……、窮屈ッスか」

豪邸と呼ぶにふさわしい大きな屋敷をディアズ様は窮屈だという。
ぶん殴りたい、無理だろうけど。

この広さで窮屈なら本宅はどのくらい大きいのだろうか?
彼らとの感覚の違いを知識ではわかっていても、実際に目の当たりにすると凄まじい差を感じる。

この前3人で一緒にご飯を食べる為に店長の家を訪ねたけど、店長の家も物凄くでかかった。
使われてない部屋や無駄に高い天井、見まわすだけで首が痛くなるほどの広さはただただ圧倒される。

しかしいったいあの無駄な空間は何のためにあるんだろう?
上級魔族になると大きな空間が必要になるんだろうか、全く不可解だ。

「いらっしゃいませ」

「あ、ども」

深々と頭を下げるディアズ様の家の使用人に、ぺこっと軽く頭を下げてあいさつをする。
ディアズ様ほどの立場になると使用人すら中級魔族で、俺みたいな下級の魔族なんてまずいない。

物凄く居心地が悪い。
感じる視線はお世辞にも好意的とは言えないもので、肌がピリピリする。

好奇の視線や驚きの視線はわかる。
ディアズ様の傍にこんな弱い魔族が居るなんてありえない事だから。

だけど明らかな敵意のこもった視線が俺に刺さり、心臓がバクバクと嫌な音を立てて跳ねた。

嫌悪、侮蔑、嘲笑、嫉妬、憎悪

敬愛する上級魔族殿の傍に俺が立っているのが不快でどうしようもないという視線。
知らなかった、視線はこんなにも刺さるものなのか。

「アシア?」

「へ」

「どうした、ぼうっとして」

「い、いや、なんでもないっス」

ぶんぶんと首を左右に振って何もないとアピールする。
ディアズ様は気づかないのだ、この敵意の混じる視線に。

(この敵意は彼に向けられたものじゃないし、視線如きを気にする人でもないか)

彼ならそんな視線なんて無意識に跳ね返してしまうのだろう。
ならば俺も何も言わない方がいい。

俺がディアズ様に言ってしまえば、ディアズ様が知らなかった事が『事実』になってしまう。
ディアズ様が知らない限りそれは俺の思い込みで済む。

それに彼を憧れ慕う気持ちは俺にもわかる。

どうあがいたってそうなれないほど、純粋な力の塊。
強烈にひきつけるその存在に手を伸ばせば、やけどするだろう強さ。

(なんでこの人俺が好きなんだろう?)

地位もない、金もない、力もない。
それどころか淫魔の中でも下級で、顔だってパッとしない。

自分を卑下する気はないけれど、どう考えても選ばれる理由がない、謎だ。
一緒に居たらいつかその理由がわかるのだろうか?

「今日は珍しく邪魔者がいねーからな、覚悟しとけよ」

「うわー、怖ーいー」

「わかりやすいぐらい棒読みだな」

口では偽悪的な事を言いながら、彼が俺を傷つけない事を知っている。
時折無茶をする事はあっても俺に触れる手はいつも優しくて、どきりとしてしまう。

だけどそんな自分を彼は否定したがるだろうし、俺もわざわざ口にはしない。
だって口にすれば『事実』になってしまうから。

「俺に酷い事すると店長に怒られますよ」

「怒られるってガキじゃねーんだから、怖かねぇよ」

フンと鼻を鳴らしてディアズ様はニヤリと笑う。

その悪人面にどきりとしてしまうのは、俺が下級魔族だからなのだろうか?
それとも俺の心のどこかに化学反応が起きている所為なのだろうか?

まだはっきりとはわからない。
でもこのドキドキは悪くない

「……本当に?」

「怖かぁない。……すげぇしんどくてめんどい」

「ねちっこいからなぁ、店長」

さっぱりしている面もあるのだが、変な所で執念深くて心配性。
両性な所も手伝って店長は母親っぽい性質が強い。
それは俺に対してだけじゃなくて、昔からのなじみであるディアズ様に対してもだから、きっとそういう性格なのだろう。

ふんわりと包み込むみたいな優しさに、わずかな毒が混じる。
その毒はじわじわと身体にしみこんで、気づいた時にはその心地よさから抜け出せないのだ。

「ねちっこい……、あっちの方もか?」

「唐突な下ネタとかオヤジッスね、ディアズ様」

「お、オヤジィ?!」

否定はしない。
自分も気持ちよくなりたいディアズ様に比べて、店長は俺の官能を高める事を重視する。

なめらかな指先での愛撫は気持ちよさで身体だけではなく、意識までトロトロにしてしまうほどなのに、店長が挿入したのは数えるほどしかない。
最終的に俺が疼きに耐えられなくて、自分で誘ってしまったり。

(やべぇよなぁ……)

恥ずかしいとは思うけど、俺はどうしようもなく淫魔で快楽に弱く、彼らが与えてくれる極上の快楽から逃れる術など考えもつかない。

「くそ、この淫魔め、生意気な口聞けないようにしてやる」

「殺すんスか?」

「馬鹿、こうすんだよ」

スッと眼前が暗くなり、目の前にディアズ様の端正な顔のドアップ。

「え」

ここ、廊下なんだけど。
まだ使用人さん、いるんだけど。

「ちょ、んぅっ?!」

いつの間にか身体に回された腕が逃げようとする身体を引き留めて動けない。
ふさがれた唇の間からこぼれた息が肌をなぶり、体温がカッと上昇する。

「……っ、ふ、…ぁ」

時間にしてわずか数秒。
だけど俺の身体を熱くするには十分で、俺の言葉を封じるのにも効果的だった。

(クソオヤジ)

内心で負け犬のように吠える。
実際返り討ち、惨敗だ。


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