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リク6 その3
「着いたぞ、足元ふらふらしてるけど大丈夫か?」

栄太郎の肩に腕を回し、腰を支えられて俺はふらふらと歩く。
アルコールには強い方だけど、栄太郎の仕掛けてくる悪戯から逃げる為に飲みすぎた。
真面目そうな顔してるくせに、エロエロ星人め。

「ほら、下ろすぞ」

「ふへー……」

俺の煎餅布団とは違って柔らかなベッドの上に横たわると、自分の体重でフカリと沈む。
家政婦さんか誰かが干してくれていたのか、冬だというのにふかふかで暖かさを感じるお日様のにおい。

「上着ぐらい脱げ、皺になるぞ」

「脱ぐー、引っ張ってー」

「ものぐさめ」

上着のボタンを外し腕から袖を抜くと、コロリと転がり俺の抜け殻を栄太郎に託した。
大の大人が転がっても問題のないサイズにも驚くが、文句を言いながらも俺の上着を回収してハンガーにかけてくれた栄太郎にも驚く。

絶対文句を言われると思ったのに。
ああ、でも俺がこんなに酔ってるのも全部栄太郎の所為だから、やらせても大丈夫、OK、問題なし。

折角の美味い飯も、おごりの酒もどんな味だったか思い出せない。
終始上機嫌の栄太郎がなにやらいろいろと話していたのはおぼえているけれど、それがどんな内容だったか覚えているのは断片的なものだけだ。

最近の仕事の話、出張先で食べた食事の話、悪くなりそうな天気の話、どれも平和で他愛の無い会話。
その合間に囁かれる濃厚な愛に、ゾクリとしたのもなんとなく覚えてる。

戯れに俺の太ももに伸ばされた足が内側の柔らかい部分をツゥとなぞる感触に声を殺すのに必死だったのと、店員の目を盗んでねっとりと指に這わされた舌の温度だけが確かな記憶だ。

「外であんな事して、誰かに見られてても知らないからな」

「俺の知り合いが来そうな店じゃない。それにばれたってもう構わない」

まさかの言葉を聞いてまどろみ始めていた思考が一瞬で真っ白になる。
俺と違ってお堅い仕事に就いている栄太郎は同性愛者だなんてばれたら絶対困ると言うと思っていた。

「なんで? 仕事なくなっちゃうじゃん」

「同性愛者というだけで完璧に切り捨てられる世の中ではなくなってきた、勿論風当たりは強いがな。それよりも俺は尚幸と一緒にいる方が大事だ」

もしかしたらこの台詞に俺はドキンとするべきなのかもしれない。
だけど俺の背中はヒュッと冷め、温かいはずの部屋の中でブルリと震えた。

「栄太郎、それは大分破滅的な考えだと俺は思うよ? 俺はむしろ逆だな、何かあるかもしれないから何かあった時の為に仕事を大事にしようと思う。お金が無いって別れたくない」

「俺と?」

「他に誰がいるんだよ」

淫乱ビッチみたいな顔してるし、いやらしい態度を取ってしまうのはわかってる。

だけど俺は今まで誰かと付き合った時に2股とかした事無いし、その時は1番好きだと思って付き合ってきた。
今は栄太郎が好きだから栄太郎の事を1番に考えてる。

それまでは攻めばっかりだった俺が、苦手だったフェラテク磨いて、処女まで捧げてるなんて言ったら絶対栄太郎がいい気になるから言わないけどね。

「俺の職業知っているか?」

「んにゃ、あー……、なんかお偉いさんなのはわかってる」

「俺は社長の息子で、今は専務をしている」

初耳で寝耳に水。
漠然と偉いとは思っていたけれど、まさか社長の息子とか、言えよ! と。

「……、という事は次期シャッチョサン?」

「今の所はな。下に弟がいるから社長の座は弟に譲ろうかと思っていたんだが、物凄く嫌そうな顔をされた」

「なんで?」

「父親の仕事の忙しさを見ているからな。まあまだ大学生だ、これからどうするかは本人が決めるだろう」

「いやいや、そっちじゃなくて。なんで弟に譲ろうと思ったんだ?」

俺の見立てでは、栄太郎は物に対して欲がそれほど強くない。
おそらくそれは育ちのよさとでも言うべきもので、がっつかなくても様々なモノが手に入った結果だろう。

だけど自分が当然手に入れられるものを兄弟とはいえ他者に譲るとは思えなかった。
話の流れや名前からおそらく栄太郎は長男で、当然次期社長として働いている。

栄太郎の発言はとても不自然で、強い引っ掛かりを覚えた。

「…………、か」

「え、何? 聞こえない」

ポツリと呟かれた言葉は1人ごとだったのかと思えるほど小さく弱い。

俺の声に導かれるようにベッドの縁に腰を下ろした栄太郎は、俺の髪を指で梳きながらもごもごと言葉を紡いだ。


「……だって、忙しくなったら今以上に尚幸と一緒にいられる時間が減るじゃないか」


「ばっ……」

馬鹿、可愛い!
何この可愛い男、俺の恋人なんですよ、コイツ!

やばいやばい、キュンキュン来た。
主に心臓と股間が。

「尚幸?」

「お前っ、それ絶対狙ってるだろ!」

「何がだ」

怪訝そうに潜められる眉。
嘘、あれで狙ってないとか、こいつ絶対プレイボーイだ。
ただでさえ金持ちで意外に格好良くて心配なのに、無自覚プレイボーイとか心臓に悪いんですが!?

「無意識たらしかよ、もう馬鹿! 好き!」

「悪口なのか愛の言葉なのかどっちかにしてくれ、返事がし辛い」

「好き」

栄太郎の頬を手でふわりとはさんで俺の方に向ける。

ほんのりと赤くなった頬が可愛い。
照れ隠しでキュッと結ばれた唇が凛々しい。
鋭くて見透かすような眼がかっこいい。

その存在が愛おしい。

「……、俺もだ」

徐々に近づく顔にまぶたを閉じる。
吐息が束の間交差して、お互いの唇が触れた。

キスは好きだ。
だって、セックスよりも気持ちが近くなきゃ出来ないもの。



あきゅろす。
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