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リク6 その1
マナーモードにしておいた携帯が胸ポケットでガタガタと震える。
仕事中ではあるものの大事な用件だった時の為、ちらりと確認すればメールのアイコンが点灯していた。

辺りを見渡し誰もいないのを確認して素早くメールを開くと、予想していた通りの名前が目に飛び込む。
仕事に集中しているフリをしながら、机の陰でボタンを押した。


件名:お疲れ様

仕事お疲れ様(・∀・)
今日約束の日だけど、大丈夫そう?


件名:RE:お疲れ様

大丈夫
時間何時?


件名:待ち合わせ時間

いつもの場所に21時!
残業になって遅れたらゴメン(´・ω・)


件名:RE:待ち合わせ時間

了解、遅れるなら連絡下さい
それじゃあ後で


件名:楽しみにしてる

仕事頑張って
また後で、楽しみにしてる!(・∀・)ノシ


束の間の短いやり取りを終えて携帯を閉じた。
大分使い込んだ俺の携帯はこの短い時間でもバッテリー部分がほのかに暖かくなってしまう。

スマホだかスマフォだかが主流になりつつある現代だが、俺は今使っている携帯が気に入っている。
使えるものは使う主義だし、なによりも使い続けた愛着もあった。

こうやってメールも出来るし通話も出来る。
携帯に機能をつけても使いこなせない俺の身の丈にちょうどいい。

しかし、

「それにしても栄太郎のメール可愛いな」

どんな顔しながらこの文章打ってんだ、アイツ。



「すまん、遅くなった!」

「待ったって言っても5分ぐらいだし、連絡貰ってたから許容範囲デショ」

自販機で買ったコーヒーを左右に振って主張する。
値段は120円といつもよりもお高めだが、この暖かさには変えがたい。

「って、うぉい! その格好でここまで来たんかい」

よく見ればこの寒空の下だというのに、首にしっかり巻かれるはずのマフラーは緩く首元に纏うばかりで防寒効果は薄そうだ。
高そうな革靴で地面をカツカツと鳴らし、足早に近づいてきた栄太郎の鼻は少しだけ赤かった。

「いや、待たせているから」

「真面目だねぇ」

ニシシと馬鹿にするような笑い方をしながらも、内心凄く嬉しい。
だってそれって俺の為でしょ?
愛されてるっぽくてすげー嬉しいじゃん?

「会える時間が短くなるのは嫌だ。それじゃなくても最近すれ違いが多かったのに」

「あー…、そだな。俺の方もバイト増やしたり、友達のヘルプ入ったりで何かと忙しかったしなぁ」

「以前は……、その、定期的に会っていたじゃないか。だから会えないというのがこんなに辛いと思わなかった」

以前……?
えっと……、ああ!

「咥えてた時?」

「お、お前は! 俺が言葉を濁した意味をわかっているのか?!」

「事実ですし?」

「情緒がない」

「金払ってた癖に情緒とか笑うわー、まじ笑うわー」

「そ、れは……、そうしないと会えないと思っていたから」

ウッと言葉を詰まらせた栄太郎は、もにょもにょと口を動かして小さな声で言い訳をする。
そらした視線と尖らした唇、頬が赤いのは寒さだけじゃないよね。

多分、俺の方が栄太郎よりずっと相手を好きなんだと思う。
そんな姿も可愛いなんて思えてしまう程度にメロメロ。
俺の男、可愛いなぁ。

「そ ん な の は! ともかく!」

「お、おい!」

「悩んでたりグズグズしてる時間がもったいない! それにここ寒ぃし移動しよう」

栄太郎の後ろに回り背中を押して先を促す。
冷たくなってしまった空き缶は持っているだけで手が痛い程で、布越しに冷たい風を受けた足先も痺れてきた。
栄太郎よりも俺の方が安物を着ている分寒さに弱く、はぁと吐いた息はゲームのドラゴンが吐く炎みたいに空に拡散する。

「俺は気にしてねぇよ?」

「そう、なのか」

「だってそんな手段でもないと、お前と一緒に居る理由が見つからなかったもん。あれが最善だったと思うし、俺頭悪ぃから他の手段なんて考えつかねーし」

栄太郎が履いている靴だけで俺の数か月分の給料が飛び、腕に巻いている時計だけで数年分の給料が飛ぶ。

金銭感覚のずれとでも言うべきか、どうしようもない溝があるのは確かで、それはなんともならない問題だ。
どうにもこうにも暮らしてきた環境が違いすぎる。

(ちょっと豪勢にって鳥の胸肉をもも肉に変えるような生活、栄太郎に似合うとも思えないしな)

だけど分かり合えない訳じゃなくて、それ以外にお互いが尊重し合える事はあるはずで、だからこそ一緒にいらられる今がとても大事。
ただの性欲処理係が恋人になってるなんて割とドラマティックじゃない?

「悪いと思ってんなら飯おごれ」

「そんなのでいいのか?」

「あ、でもこの前連れてってくれた豪華な店は勘弁な。美味いんだけどフォークとナイフじゃ食った気しねぇし、高い酒も味わかんないから勿体ね」

「じゃあ懐石の……」

「居酒屋行こー、おー!」

「えっ、あ、おいっ!」

なんだか不穏な言葉が聞こえた気がするけど、聞こえない聞こえない。
グイグイと栄太郎の背中を押して居酒屋がたくさんある道へと進む。

別にね、安くっていいの。
酒は酔えればいい。

一緒に飯食って、一緒に笑って、酔った勢いでいつもよりちょっとエロイ事出来れば十分だから。



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