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リク5 その1
「兎織」

「はい? なんですか?」

今回は家に遊びに来てくれた龍海さんをもてなす為にお茶を入れていた僕は、声をかけられて台所から顔だけ出す。
失礼かもしれないけれど、お湯を使っているため身体を向けられない。

でも龍海さんにしてみたら珍しい事だ。
いつもは僕の顔を見て何でも話してくれるのに、何かしている僕に話しかけるなんて……。

「兎織の都合のいい時でいいんだが……、兎織の家に行きたいんだが」

「僕の家ですか? 別に構いませんよ。急だと母さんも焦るかもしれないので連絡して都合のいい日を聞いておきますね」

「ああ、ありがとう」

龍海さんの声音には安堵が混じる。
断られると思ったのかな?

「僕も久しぶりに帰るなぁ、何かお土産買っておかないとどやされちゃうかも。やっぱり甘い物……、でもこの前行ったら大分タオルも減ってたんだよね」

「……兎織」

「はい?」

お茶をトレイからテーブルに移す僕に龍海さんは軽くため息を吐いた。
やっぱりお土産にタオルは変だろうか?
でも人数多いとタオルって結構消耗激しいんだよね。

考え込む僕に龍海さんは苦笑しつつスッと腕を伸ばして僕の頬を大きな手の平で撫でる。
顔のラインをツゥとなぞる指先に背中がゾクリと震えた。

「ずいぶんと暢気に構えているが、私が何をしに行くかわかっているか?」

「え、えっと兎族の一般家庭訪問……的な?」

少数精鋭という言葉がピッタリな龍族は絶対数が少ない、能力が高い為か出生率が低いのだと聞いた事がある。
それに反して兎族は能力の低さを数で補うためか大体の家族が大家族で、我が家もそれに逆らう事無く大家族だ。

真面目な龍海さんの事だからお互いの種族を実地でよく知りたいと思ったんだろう、なんて思っていたのだけれども違うの、かな?

「そろそろちゃんと意識して貰えないのは寂しいのだが……」

「ひゃうッ?!」

龍海さんの手が僕の左手に重なって、指先から手の甲へ向かってスッと撫でた。
触れるか触れないかの曖昧な触り方に妙な声が口をついて零れる。

「あ、あう…、ぅ」

「相変わらず敏感だな、兎織は」

口角を微かに上げて龍海さんはクスリと笑う。
上品な笑い方に自分の失態が恥ずかしいやら情けないやらで頬の温度がカッと上がった。

龍海さんは僕の左手の薬指、その付け根を指で軽く押す。
その意味ありげな行動を意図を読めず僕は首をかしげた。

「ご両親に挨拶がしたい」

「へ……、えっ、ええええええっ!!!」

い、家に行くって、そういう意味?!
わ、わあ、なんだか凄くずれた事を言ったけど、そういえばそうだよね、僕達はそういう仲で、将来の事を誓い合った……、わぁあああ…。

「けじめとしてご両親にきちんと挨拶しておきたい。……もし反対されたとしても兎織の事を諦める気は無いけれど」

「いや、そんな、反対なんてしないですよ!」

龍海さんのご両親に僕が反対されるのはあるとしても、僕の両親が龍海さんとの結婚を反対するのは考えられない。

だって龍族だ。
僕自身は龍海さんの種族で受け入れた訳ではないけれど、細かい事情を知らない両親からすれば十二支で最も優秀な龍族と結婚を受け入れる以外の選択肢は無いだろう。
むしろ凄く喜ぶ姿以外の想像がつかない。

「どうかな? 大事な長男を嫁に持っていかれたら困ると怒られる気ではいるんだが」

「確かに長男ですけど、僕の家6男3女ですよ?」

兎族の大人がよく言う冗談の1つに、『子供なら佃煮にするほど居る』というのがある。
子供の頃は『たくさん居るのだから1人ぐらい減ってもいい、悪い事をしたら煮られてしまう』と怯えていたけれど、今ならその意味がわかる。

たくさん居るからこそあらゆる道を選ぶ可能性があり、それを受け入れたり諦めたりする為に親達は言うのだ。
『子供なら佃煮にするほど居る』と。

「誰かが継がないといけないような名家でもないですし、もし家督を継ぐにしても弟も妹も優秀ですから」

「だから兎織は私の所に来てくれる?」

「……一人っ子だって、龍海さんの所に行きますよ?」

「可愛いことを」

龍海さんの綺麗な顔がスッと近づき、唇が重なる。
柔らかい唇が触れ合い、ちゅ、ちゅ、と音を立てて僕の心臓を高鳴らせた。

まだ慣れないキスにどうしていいのかわからな手を龍海さんの手に伸ばすと、指を折り重ねるようにしてキュッと握られる。
たったそれだけなのに、酷く安心して身体の力が抜けていく。

「んぷ、ぅ……ん、ん」

ますます深くなっていくキス。
口内を龍海さんの舌が舐り、荒々しい動きにビクリと逃げを打つ僕の舌を龍海さんの舌は逃さず絡め取っていく。
塞がれた唇の変わりに鼻で息をしているけれど、唇に意識が集中してしまい、つい呼吸をするのを忘れそうになってしまう。

「ふ、……んぁ、…は、ぁ」

息苦しさと快楽が入り混じった脳は指先を小刻みに震わせて、それに気づいた龍海さんが唇を赤い舌でペロリと舐めて離れた。
離れていく熱をつい追ってしまいそうな自分が恥ずかしくて龍海さんが直視出来ない。

呼吸困難と照れで赤くなった頬に眠る前の子供にするような優しいキスが降る。
優しくてくすぐったい感覚に意識がトロンとしてしまう。

「龍海、さん…」

「そんなに無防備な姿を晒していると悪い龍にかどわかされてしまうぞ」

普段とは違う欲を含んだ龍海さんの声は僕の身体をジワリと痺れさせる。
濡れた唇を龍海さんの指で形を確認するようになぞられて、隠しようも無い本心が口を突いて出た。

「龍海さんなら、よろこんで」

だってこんなにも好きなのだから。

「……、ぁ」

たくましい腕に抱きしめられて、僕は酷く満たされていく。
好きで好きで、どうしようもない。


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