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リク3 その3
濡れた床に身体を押し付けられ、勇者の指が俺の肌をツゥとなぞる。
暴力的な力で押さえつけられているはずなのに、勇者の指は優しくて全身がカァっと熱くなってしまう。
その腕から逃げ出そうと身を捩るけれど、簡単にいなされてしまった。

……いや、違う。

本気で反発したら幾ら勇者といえども、無理を出来るほど俺は弱くない。
俺は、どこかで期待してしまっている。

彼の腕に抱かれるのならその理由が怒りでもいい、痛くてもいいから受け入れたい。
そんな薄汚れた感情。

「うぁ……、あぁ…っ」

胸の中心を滑る勇者の手に、全身が震えて止まらない。
恐怖と快楽が無い混ぜになった感情は、自分でもどうするのが正解なのかをわからなくさせていく。

「思ったよりも色が白いんだな」

「…え?」

「顔とか腕とか普段見えてる部分は日焼けしてるからな、普段見えない部分はすげぇ白い」

そう言って確認するように俺の腰を指の腹ですっと撫でた。
ゾクゾクと痺れるような甘い刺激に肌が粟立ち、腰がぞくんと重くなる。

「んぅ、くひぃ…っ!」

思わず零れた自分の声はまるで欲を誘う雌のようだ。
慌てて口を塞ぐけれど声はとっくに口から出た後で、目を丸くした勇者とガッチリ視線が合ってしまう。

「な、……んつー声出すんだ、お前は」

触った勇者もビックリしたらしく、先ほど纏っていた怒気は綺麗さっぱり消えていた。
その分自分だけが淫らに昂ぶっているみたいで恥ずかしい。

「う、あ……、だ、だって、いきなり触るからぁ」

ヒクヒクと震える身体の中心では、ペニスが刺激を求めて揺れる。
その先端からはトロトロとはしたなく蜜を零していた。

「えろ……」

「…ぃ、あ、見ないで」

全身が焼けるように熱い。
自分の1番いやらしい部分を彼に見られていると思うだけで頭がどうにかなってしまいそうだ。

それなのにもう1人の自分は彼が自分を見てくれている事に喜びを感じて、もっと見て欲しいと思っている。
浅ましい自分に嫌悪感すら覚えた。

「くそっ!」

彼は忌々しげに言葉を吐き捨てる。
興奮しているのか彼のペニスは少しだけ勃ちあがっていた。

もしも自分でそうなっているのなら、と想像するだけで身体の芯がズクンと疼く。
自分のモノよりも雄々しいそれに、喉がコクリと鳴った。

「抵抗しねーのか?」

「え、あ……、だって……」

気がつけば身体を押さえつけていた腕は身体から離れていて、俺が逃げないで居られる大義名分は無くなっている。
優しい彼は偽悪的な言い方をしながらも、俺を逃がそうとしてくれているのだろう。

そんな優しさとは裏腹に、俺は彼にして欲しくてしょうがないのだけれども。

「お優しい魔法使いさんは勇者に身体を差し出してくれんの?」

嘲るように笑いながらも俺に逃げ道をくれる優しさが好き。
自分だって昂ぶっているのに俺の為に我慢してくれる気遣いが好き。
俺が怯えていると思って少し後悔した色を滲ませた瞳が好き。

「……違う」

「あ?」

「お、俺が、して……欲しい」

「あ゛?」

勇者が信じられないモノを見るような視線で俺を見た。
自分だって信じられない。

こんな事を口にしたら拒絶されるって判っている。
だけど彼はこんな俺にも真摯に接してくれた、俺も嘘をつきたくない。

「……好き、だ」

カアッと全身の温度が上がって視界は潤み、寒くもないのに小刻みに身体が震えた。
これだけ湯気で潤っている筈なのに、喉が渇きを訴える。

彼はどんな顔をしているのだろう?
やっぱり気持ち悪い?
結果がわかっていても拒まれるのは怖くて、俺は自分を守るように身を縮めた。

「………た」

「??? な、なに……?」

聞こえた声は上手く聞き取れず、聞き返そうとする俺の二の腕を勇者の手がグッと掴む。
瞬間殴られるのかと思い、ギュッと身体に力を入れた。

「損した!」

「え、えっ?!」

至近距離で咆えるように勇者が怒鳴る。
でも俺に怒っているというよりか、自分に怒っているような口調だ。

「人が必死で我慢してやりゃあ、好きだとか抜かしやがる! さっさと言え、この馬鹿っ!」

「言える訳ないだろ!」

「んでだよ」

「は、恥ずかしいし、……嫌われたら嫌だ」

「嫌うわけないだろう、俺も……好きだ」

仏頂面の顔を少し赤らめさせて、いつもより小さめの声で勇者が囁く。
好き、好きって……


「……何が?」


一瞬で場が凍りつく。
グッと握られた腕に力が込められて非常に痛い。

「〜〜〜〜っ! この流れでお前はぁ!!!」

「えっ、えっ?! なに、え?!」

いきなり怒り出した彼に、俺は戸惑うばかりだ。
好きだと言っても怒られなかったのに、何で今怒られているのだろう?

「うわぁっ!」

身体を持ち上げられ、荷物みたいに肩の上に担ぎ上げられる。
ぴったりと密着した肌に混乱し肩の上で暴れる俺を彼は離す気がないらしく、軽くいなすとそのまま脱衣所まで連れて行かれた。
身体も殆ど洗っていないし、まだ先ほどの熱が残った身体はヒクヒクと刺激を求めて揺れているのに。

「な、なあ、どこに行くんだ?」

尋ねた俺を床に降ろすと勇者は何も応えずに、俺の唇を塞いだ。

「んん……っ?!」

自分の唇に重なった柔らかい感触が勇者の唇だと気付くのにしばらく時間が掛かった。
頭は混乱しているけれど視線はガッチリと勇者に捕らえられて動けない。

唇は触れるだけで離れたけれど、永遠とも思える時間に俺の身体の力は抜けて、そのまま床にペタンと座り込んだ。
震える指でなぞると触れた唇の熱が蘇り、今の体験が夢ではなかった事を伝えてくれる。

ゆっくりと視線を上げて勇者を見れば、こちらをジッと見ていた。

「俺が誰を好きなのか、みっちり教えてやる」

そう言って勇者はこちらを睨むけれど、その頬は赤くてちょっと締まらない。
でもそんな所も愛おしくて、俺の身体はゾクリと震えた。



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