[携帯モード] [URL送信]
リク3 その2
脱衣所に入ると彼は勢い良く服を脱いだ。
露わになった肉体はバランスよくついた筋肉に、割れた腹筋、長身も相まって凄くカッコよく見える。

(うらやましい、俺はあんまり筋肉付かないんだよな……)

自分の腕の軽く撫で、その細さを忌々しく思う。
もし自分がもっと逞しくなれる身体なら彼の盾になって守れるのに……。

頑張って鍛えてもこの程度だったのだからどうしようもないとはわかっている。
だけど彼の影に隠れて魔法を使うしか出来ないこの身がもどかしい。

「おい、なにしてんだ」

「え? 何が?」

「あ゛あ? 風呂入るのにいつまで服を着てんだって聞いてんだよ」

「え……、ええっ!」

てっきり背中を流したり着替えの準備をするのに呼ばれたのだと思っていたので、彼の言葉に過剰なほどビックリしてしまう。

「疲れてんのはお前も一緒だろうが、つか精神的な疲労もあわせたらお前の方が重症だろう」

「あ、いや、でも、俺は後でいいよ」

「俺と一緒に入るのになんか不都合でもあんのか?」

ある、ありすぎる。
傍に居るだけでも嬉しくてドキドキするのに、一緒に風呂になど入ったら心臓が破裂してしまう。

「え、えーと……」

なんとか言い訳してみようとするけれど、混乱した頭では全く思い浮かばない。
モゴモゴと言葉を濁す俺に焦れたのか勇者は俺の服に手をかけると、乱暴な言動とは対象的に丁寧な仕草でボタンを外し始めた。

「ふわぁ?!」

「うっせ、さっさと脱げ」

「いや、でもっ! ほら、俺の身体貧相だから……っ!」

それも恥ずかしい要因の1つなので言い訳にそれを口にすると、勇者は俺の目をしっかりと見据え、良く通る低い声で俺に語りかける。
一言一言を言い聞かせるようにしっかりと。

「その身体がこの国を救ったんだろうが」

「あ……」

「自分に自信を持て、お前も、その身体も、誇るべきものだ」

身体にじわりと染みこむその言葉に、涙が出そうだ。
自分が頑張ってきた事が認められたようで、つま先から頭のてっぺんまで悦びが広がっていく。

彼は勇者だ。
ただ強いだけではなく、こんなにも弱い心の俺を導いてくれる。

「……ありがとう」

「馬ー鹿、仲間なんだから礼なんて言ってんじゃねぇよ」

口の端を軽くあげてニヤリと笑う。
その顔はやっぱり悪人顔なのに、俺の目には優しく見えた。

「おら、風呂入るぞ」

「へ、ふぎゃっ?! いつの間に!!!」

気付けばローブ状の服はすっかり脱がされていて、身に纏っているのは下着とブーツだけという恥ずかしい格好になっていて、彼はそんな俺の格好を見てニヤリと笑う。

「下着も脱がさないと入れないか?」

耳元で囁かれた低い声にビクリと身を竦ませながら後ずさり、ブンブンと首を振った。

彼は満足したように笑むと、

「先に入ってる」

と浴場のドアを開け、中に入っていく。

残された俺は彼の背中が見えなくなるのを待って、その場にヘナヘナと座り込んだ。

ボタンを外された感触が、服を肩から落とす感覚が、彼の指が肌を撫でた温かさが、全身を支配していく。
触れられた時は言葉に感動していて気付かなかったが、よくよく考えれば凄い接触具合ではないか。

「し、心臓破裂しそう……」

少し触れられただけで動悸が止まらない。
しかも一緒に風呂に入らなければならないなんて、俺の心臓は持つのだろうか?



結局逃げる訳にもいかずおずおずと浴場に入ると、広々とした宮殿のような空間が広がっていた。
湯気がもうもうと立ち昇っている所為もあるけれど、天井も高いようで上まで見通せない。

備え付けの桶も持ち手にまで意匠が施されており、流石この国1番の宿だと感心させられる。
桶に湯を溜めて肩からかけると全身の緊張が解れ、安堵の息が零れた。

「はぁ……、気持ちいい」

気が張っていた為に疲れに気付かずに居たけれど、やはり命がけの戦闘をした後で疲れていないはずもない。
こうして身体の力を抜いてみてわかる、自分にも休息が必要だ。

「よう」

「ひぃっ?!」

背後から声をかけられ、腰掛けた風呂椅子から飛び上がる。
誰だかわからずにビックリしたのではない、誰だかわかっているからビックリしたのだ。

いまここには彼しか居ないのだから。

「なに変な声出してんだ?」

「な、ななな、なんでもない!」

平静を装おうとするものの、言葉はどもるし顔は真っ赤に火照る。
普段通りがどうだったのか頭からすっかり消えてしまって、いつもの自分がわからない。

「まあいい。それより身体見せろ」

「はいいいっ?!」

「なんだよ今日はうっせぇな、お前は怪我とか傷とか隠しやがるから心配なんだ」

「っ!」

勇者がスッと腕を伸ばし、俺の二の腕をむんずと掴んだ。
彼が触れた場所から熱が生まれる。

「こっちの腕に傷は……ないな、次」

「えっ、えっ?」

「逆の腕だよ、早く」

「は、はい」

乱暴な声に反射的に逆の腕を出すと、彼は1点を見咎め眉を顰めた。

「……チッ、痣になってんじゃねか」

そういえばと思い出せば、敵の攻撃を受けた時に吹き飛ばされ城の硬い壁に腕からぶつかっていたような……。
その後いろいろ有りすぎて、痣になっていた事は勿論、ぶつかった事すら忘れていた。

「お前は人の心配ばっかりし過ぎなんだ、もっと自分の身体を大事にしろ」

「でも勇者である君の方が大事だ」

「あ゛?」

「俺の変わりはいくらでもいる、でも君の代わりは誰も……」

「……ざけんなよ」

「え、……っぐ!!!」

突然低く唸るような声を上げたかと思うと、勇者は俺の肩を掴み浴場の床に押さえつける。
濡れた床から激しい水音がするが、音ほどの痛みはなかった。
きっと手加減してくれているのだろうが、なぜ彼が怒っているのかもわからない。

「ふざけるな!!! 死ねば誰の命でも終わりだ、お前が死んで俺が生き残る事に意味なんかねぇんだよ!」

「違う! 俺の命と君の命は同じじゃない」

「……、俺が勇者だからか?」

「ぁ……」

見下すような冷たい視線に心がスゥッと冷める。
彼がそういう扱いを受けるのが嫌いなのはしっていたのに、俺にはどうしても彼が自分と同じではないのだ。

彼がとても大事だから、……とても好きだから、自分が犠牲になって彼が救えるならそれは不幸ではない。
それでもそんな言葉を伝えられない俺は、唇を噛んで視線を反らすしか出来なかった。

「……そんなに俺が大事か」

「当たり前だ、大事に決まってる」

「そうかよ、じゃあ大事な俺に奉仕して貰おうか」

「―……ひぅっ?!」

突然下肢に何かが触れる感触がして、ヒクリと身を戦慄かせる。
そちらに目を向けた俺の目に信じられない光景が飛び込んできた。

勇者の指が、俺の、性器に、触れて、なんで……

「い、ゃ……」

「大事なんだろ? なあ、溜まってんだよ。大事な勇者サマのお願いなんだから聞いてくれるよな?」

怒気を孕んだ声で俺の耳を嬲る勇者の瞳は、熱い欲望と冷酷さが入り混じった複雑な色をしている。
状況についていけず、小刻みに震える俺の身体を勇者の指が楽しげに弄り始めた。


あきゅろす。
無料HPエムペ!