リク2 その2
結局また不機嫌になったガルディラの機嫌を取るのに時間を取られ、レポートが終わった頃にはもう明日が今日になっていた。
眠い目を擦りふわぁと欠伸をしつつ、そういえば当初ガルディラが俺の命令を聞くとかそんな話だった事をふと思い出す。
(まあ別に言う事を聞かせたい訳じゃないからいいんだけどね)
考え方の違いに戸惑う事はあるし、全てが順調という訳でもない。
だけど甘えられれば嬉しいし、1人で暮らすのには慣れていたけれど、誰かと一緒にいるのは悪くない感覚だ。
それになにより聞いて欲しい願いや命令も無い。
そんなに物欲の強い方でもないし、簡単なものなら自分で買える。
ガルディラに食事を頼んだら生肉の塊を出されそうだし、掃除や洗濯なんて頼んだら良くて現状維持、最悪部屋にいられない状況になりそうだ。
「んっ、〜〜〜はぁー、寝るか」
グッと身体を伸ばすと同じ姿勢でずっといたせいだろう、強張っていた身体がゴキゴキと音を立てる。
首を左右に動かしながら肩を揉むと、ガチガチに硬くなっていた。
(ガルディラに揉んでもらうとか……)
想像してみてその考えは吹き飛ぶ。
人間の身体でやってもらえば力の込めすぎで青あざ、竜の身体でやってもらえば鋭い爪が突き刺さるなんてそんな未来が見えるようだ。
(何もしないのが1番役に立つとか言ったら泣くだろうなぁ)
現状ガルディラの仕事は、ペット的な癒しと可愛い事のような気がする。
俺のベッドを自分用に使うガルディラを起こさない為に別室でレポートをしていたのだが、案の定ガルディラは俺のベッドで眠っていた。
いつもなら毛布の上でクルリと丸くなっているのだが、今日は珍しく毛布の中に潜り込んでいるらしく、小さなシルエットが毛布に浮かぶ。
起こさないように薄暗い部屋の中を慎重に進む。
足音もあまり立っていないはずなのに、モゾモゾとガルディラは動いて小さな声で俺を呼んだ。
「ケータ……?」
布越しだからか若干くぐもった声が弱々しく聞こえ、ぎくりとする。
まだ起きたばかりなら直ぐ眠れるだろうと安心させる為伸ばした手で頭を撫でると、ガルディラは俺の指に腕を絡めキュッと握った。
「ケータ、俺……」
「ん?」
「身体が、変…な気がする」
「えっ!」
慌てて毛布を剥がしガルディラを腕に抱えると、部屋の電気をつける。
「〜〜〜、わからん!」
人間のように顔色で判断出来ないし、体温が高いとしてもそれは竜にとって平熱かもしれない。
軽く汗ばんでいるから熱いのだとは思うが、冷やしていいモノなのか俺には全くわからない。
「身体が痛いとかは?」
「ない」
「お腹は?」
そういえばアイスを食べていたと思い出し、それが身体に合わなかったのかもしれないと、手の平で軽くお腹を押さえる。
「んっ、ぃ」
小さな声を上げたガルディラの外見や触り心地からでは異変はわからなかった。
正体がばれては困るので、獣医に見せる訳にも人医に見せる訳にもいかない。
完璧に手詰まりだ。
「くそ、結局頼るしかねぇのかよ」
この世で最高の外道暫定1位を頼るしかない事が腹立たしいが、ガルディラの健康には変えられない。
何かあった時や困ったらいつでも電話してねと強引に登録され、絶対にかける事はないと思っていた電話番号を俺は押した。
「ご主人様を呼びつけるなんていい身分だな」
直ぐに行くと電話が切れてほんの数分、どこから入って来たのかは知らないが、赤い髪の毛の悪魔が俺をにらみつけた。
その鋭い視線の冷たさに背筋は震えるものの、俺だって用事もなく呼んだ訳じゃない。
「俺がいつでも電話していいと許可したんだから別にいいよ、それは。それよりガルディラの様子を見てあげて」
「はい、畏まりました」
俺に対するのとは対照的な優しい声で悪魔は返事をし、俺の腕からガルディラをふわりとした手付きで持ち上げた。
悪魔はガルディラの小さな背中を片手で支えると、蛍光色の光を放つ爪を腹部に押し当ててツゥ…となぞる。
それで何がわかるのか知らないが、俺はそれに頼るしかない。
1通り終わった悪魔は俺にガルディラを渡しつつ、平然とした声音で告げた。
「……別に病気や怪我はしてない、健康そのもの」
「はぁ?! じゃあ、何でこんなに苦しそうにしてるんだよ!」
「知らない、ただ確実に言えるのは病気じゃない」
プルプルと震えているこの状況が?
こんなに苦しそうに息を吐いてるこの状況が?
そんな訳はないと声を上げようとした俺の腕から、外道がするりとガルディラを奪った。
「ちょっ! 何すんだよ!!!」
「…………、あのさ」
「な、何だよ……」
「ガルディラ、発情してるんじゃないの?」
「は?」
発情、って、……え。
そんな事があるのか?
いや、生物だからそういうシーズンがあるのはわかるけど、そんなの俺は知らないし、主人である悪魔も知らない訳で……。
「欲求不満なんじゃない? ちゃんとしてあげてる?」
「何を?」
「セックス」
「する訳無いだろ!」
「そりゃガルディラが可哀相だ、虐めて貰えるのを期待して待ってるのにして貰えないんじゃこんな状況にもなるよ」
ガルディラのこの状態は俺の所為なのか?
確かにガルディラがそういう状態を好むのはわかっていたけれど、普段の生活が楽しくて忘れていた。
それでガルディラに負担を強いていたのだとしたら……。
「どうすりゃ、治るんだよ」
「してあげれば良いんじゃない?」
喉がゴクリと鳴る。
覚悟しなければいけないという決意の物ではなく、とうとうその時が来たのかという欲望混じりの何か。
(俺は、ガルディラを抱きたかったのか?)
まだ俺にはわからない。
だけどその役目を他の誰かに譲るなんて、絶対に出来る訳がなかった。
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