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リク2 その1
チョロチョロと足元で走り回るガルディラを踏まないようにすり足気味に歩く。
前に気にせず歩いていたらジャストなタイミングで足の下に尻尾が滑り込み、踏んだ俺も踏まれたガルディラも酷い目に合った事がある。

踏んだ俺が酷い目に合ったのは、ビックリしたガルディラが暴れて俺の足を引っ掻いたからなのだが、正気に戻ったガルディラが目に涙を溜めて物凄く情けない顔をして謝るので許してしまった。
元々痛いだけで怒ってはいなかったので、お互い気をつけようと言ったはずなのだが……。

「ガルディラ、足元ちょろちょろするなよ。踏むぞ」

首元をムニュリと掴み持ち上げると、不満そうに尻尾をはためかせた。
一体何が不満なんだ。

「だってケータ構ってくれないんだもん」

「はあ?」

「暇ー」

身体を揺らし俺の手から抜け出したガルディラは、テーブルの上にひっくり返って駄々をこねる子供のようにゴロゴロと転がる。
見た目は小さな竜がコロコロしているだけなので可愛いのだが、ちらり、ちらりとこちらを見てくる辺り多少あざとい。

「うりゃ」

「ぶにゃっ!」

柔らかい腹を指でつくと、ポヨンと腹が指を弾く。
ちょっと太り過ぎではないだろうか?

指でグリグリと腹を押すとくすぐったいのかコロコロとテーブルを転がり、短い前足で手にじゃれ付く。
手触りのいい腹を撫でながら脇をコチョコチョすると、ピクピクと尻尾を揺らしながらガルディラは笑った。

「にゃははははっ、やめれー」

「そんな事いいながらも楽しいんだろ、おら」

「きゃはははははっ!」

竜という生き物をガルディラ以外知らないが、割と表情豊かだ。
嬉しいと目を細めて口元に笑みを浮かべるし、怒っていると眉間に皺を寄せる。
普段は何も考えていないように見えるが、そのぬいぐるみのような黒い瞳は俺が想像するよりも色んなものを見て、想像しているのかもしれない。

あまり擽りすぎると息苦しくなるのである程度でやめて、頬を指で押しながら撫でた。
円を描くように撫でるとグルグルと喉を鳴らしながら気持ち良さそうに目を細める。
どうやら多少機嫌は直ったようだ。

「機嫌直ったか?」

「む、ケータまたどこか遊びに行っちゃうのか?」

「普段だって遊びには行ってねぇよ、大学、学校。今日は買い物も済ませてあるし外には出かけないよ」

嘘は言っていない。
ただ済ませなければいけないレポートがあるだけだ。

「あ、そうだ。アイス買って来たんだ、ガルディラ食べるか?」

「アイス?」

不思議そうに首をかしげたガルディラに、説明するよりも見せた方が早いだろうと、冷凍庫からポッキンと折るタイプのアイスを取り出して目の前で振る。

「これをこうやって」

両端を持って力を入れるとアイスは半分から綺麗に割れた。

「甘い匂いがする」

「甘いぞ。はい、冷たいからな」

「うん」

両手で器用に受け取ったガルディラは、恐る恐るといった感じでアイスに舌を伸ばした。
チロチロと細かく動いた舌は冷たさに一瞬引っ込むが、その甘さを認識したのかまたぺろぺろと動き始める。

「美味いか?」

「甘い!」

甘い=美味いなのだろうか。
ぺろぺろと必死で舐めている所を見る限り、嫌いではなさそうなので安心する。

「持ってる所冷たいだろ、ティッシュ巻いてやる」

ガルディラのアイスを受けとって持ち手が冷たくないようにティッシュを巻く。
これでも食べるのが遅いと冷たくなってしまうのだが、無いよりはマシだ。

「ほら……、っておい!」

「ん?」

振り向いたガルディラの手には食べ途中の俺のアイスが握られていて、しかも性質の悪い事に甘い部分だけ吸い取られたらしく、残ったのは甘い匂いがするだけの氷部分。

「欲しいならもう1本やったのに、なんで俺の取るんだよ」

「だってケータが食べてる方が美味しそうなんだもん」

「同じ1本を2つに割ったの見てただろうが」

「だって、ケータの食べてた方が絶対美味しかった!」

どういう理屈だが知らないが、ガルディラには俺の食べていた物の方が美味しく感じられたらしい。
隣の芝生は青いというか、人が食べてると美味しく見える補正なのか。
俺も昔お袋の食べている物が美味しそうに見えて齧ってみたら口紅だったという過去があるのでわからなくはない。

「まったく、しょうがねぇな……」

別にそこまで自分のアイスに執着していた訳でもないので、諦めてガルディラの分のアイスを齧ろうとすると、ガルディラは両手をズイッと伸ばし手の平を上にした。
俗に言う頂戴ポーズである。

「……何」

「俺のアイス」

平然と言ってのけたガルディラは、当然の権利を主張するように手を揺らしてアイスを要求した。
その顔は所謂ドヤ顔に見えた気がする。
というかドヤ顔してやがる、絶対。

「…………」

アイスに執着していた訳ではない。
アイスに執着していた訳ではない、が。

「お前俺の分食べただろうが! これは俺の!!!」

冷たさで頭がキーンとなるだろう事も構わず、アイスに齧り付いた。

「ぎゃーっ!!! 酷い、ずるい、ケータの馬鹿!!!」

「先に取ったのはガルディラだろ! ずるくない!」

「ずるい! だってケータの方が美味しいの食べてたのがいけないんだもん、俺悪くないもん!!!」

ガルディラに背中を向けてガフガフとアイスを貪る俺を、ガルディラがバシバシと小さな手で叩く。
若干子供っぽいとは自分でも思うけれど、俺はガルディラより年下らしいし、多少子供っぽくても許されるはずだ。

「返せー!」

バシバシ叩くガルディラをクルリと振り返ると、ちょっとだけ涙目になっている。
そうは言わなかったが、意外とアイスを気に入っていたらしい。

ぺったんこになったアイスの空を見せるて軽く振る。

「もう食べ終わった」

「み゛ゃーっ!!!!!」

この世の終わりのような声を上げ、ガルディラがその場にコロリと転がった。

そのままどうするのか眺めていたが、声も無くシクシクと泣き出したので苦笑しながら新しいアイスを割ってやる。
グスグスとしゃくりあげ寝転がったままアイスを舐めるガルディラに甘い俺が、結局1番いけないのかもしれない。


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