リク1 その1
平日の夜、明日が休みなのもあって少しだけセルヴァと夜更かしをして遊ぶ。
と言ってもトランプなので健全すぎるほど健全。
何故かセルヴァはトランプで遊ぶのが好きだ。
単純なカードの中に様々な遊び方が内包されているという魅力が彼をひきつけて止まないらしい。
真実達が来ていれば人数の必要なトランプゲームも出来るのだが、今は居ないので大人しくポーカーで遊ぶ。
しばらく考えていたセルヴァがカードを1枚捨て、重ねられた山から1枚引いた。
チラリと俺を見る鋭い視線は俺の持ち役を探っているようだが見破られただろうか?
「ストレート」
横にスライドした指が綺麗にカードを並べて広げていく。
どうだと言わんばかりの表情に微笑ましさを感じながら、俺も自分のカードを提示した。
「残念、こっちはフラッシュ」
「あう……。今回は勝ったと思ったのに」
心持ち唇を尖らせて悔しそうにしたセルヴァは、敗けの代償としてトランプを一纏めにすると、手の平に乗せてシャッフルする。
どこが悪かったのだろうと首を傾げるあたり、やはり負けるのは悔しいのだろう
負けず嫌いな所も可愛い。
「これで6勝3敗かな?」
「ですね。ご主人様のポーカーフェイスが全然見破れないです、さっき危ないかもと思って警戒したゲームでは役なしだったし……」
「元々そんなに表情豊かな方じゃないだけだよ」
「でもこれだけ強かったらこういうゲームでは負けなしなんじゃないですか?」
「存外真実みたいななにも考えてない奴に負けるんだよねぇ、アイツの強運は意味がわからない」
「確かに真実さんは幸運からやってくるタイプの方ですしね」
わが弟ながら真実の強運は神がかっているいると思う。
勝負事でも楽しむ事優先で、どうしても勝とうという欲が無いからこその強さだろうか?
何事に対しても計算して目星をつけ、相手の考えを幾つか検討しておかないと落ち着かない自分とは全く違う思考。
本当に器の広い大物というのはああいう奴なのだろう。
俺は器も心も狭い小物でいい。
自分の器から大事な物を零れないように閉じ込められる蓋つきの小さな器。
「セルヴァ」
「はい」
カシャカシャと小気味いいリズムでカードをきるセルヴァにニコリと笑いかけながら提案する。
「折角の10回目だし賭けをしようか」
「賭けですか? そんな事しなくても欲しいものがあるなら……」
「ふふ、勝って手に入れた方が充実感あるじゃないか」
口角を上げて笑う俺になにかを感じたのか、セルヴァは姿勢を正して俺の方を見据えた。
俺の表情から必死で何かを読み取ろうとしているらしいが、今の俺からは何も読み取れないだろう。
だって、今、酷く暴力的な気持ちなのに満面の笑みなのだから。
「俺が勝ったらお外に遊びに行こうか?」
「そ、と?」
「そう」
不安げに眉を潜めて首を傾げる仕草が愛らしい。
そんな姿を見ながら俺は口元をにたぁといやらしく歪めた。
ビクリとセルヴァの身体が跳ね、今自分がこの上なく暗い笑みを浮かべている事に気付く。
やはり俺はポーカーフェイスは得意じゃない。
セルヴァを虐めるのが楽しくて楽しくて、表情が隠せないのだから。
「セルヴァの大好きな玩具も一杯持って、ね?」
「おもちゃ? …………っ!」
一拍置いてカァッとセルヴァの頬が染まる。
勿論俺が言っているのはただの玩具ではなく、セルヴァが咥え込んで離さない大好きな玩具だ。
「ぁ………、う」
声が震え、息が荒い。
その様を想像して興奮してしまっているのだろう。
本当にいやらしくて変態で、可愛らしい俺の悪魔。
「セルヴァが勝ったら何したい?」
「ふぇ?」
「俺が決めたら勝者のご褒美にならないだろう? セルヴァが決めていいよ」
「あ」
自分が勝った時の事は考えていなかったらしく、先ほどまで負けたのを悔しがっていたのに、今ではその面影すら感じられない。
「どうしたい? ……どうされたい?」
「う……ぁ、あ」
セルヴァの耳元で務めて優しく囁く。
耳まで赤く染まった顔を指先でなぞると、恥かしそうに吐息を零した。
すっと身体を引いてセルヴァから離れると、力の抜けた指からトランプを受け取り手早く配る。
「じゃあセルヴァが勝った時の事は、勝ってから聞こうか?」
目元を艶っぽく潤ませたセルヴァがコクリと頷く。
純粋に勝負も楽しむつもりだったけれどどうだろう?
セルヴァは配られたカードを確認して、こちらをチラリチラリと窺った。
その視線は先ほどまでの俺の表情を読み取ろうとしているものとは明らかに違い、まるで悪い事をしようとしているのがばれないように様子を窺っているようだ。
「先に引くよ」
2人で遊ぶポーカーなのでちゃんとしたルールも順番も気にすることなく軽く宣言してカードに手をかけた。
カードを3枚捨て、山から同数引き戻す。
引いたカードを確認する振りをしながらセルヴァの方をコッソリ見れば、身体をモジモジと小刻みに動かし落ち着かない様子だ。
(相変わらず感じやすいなぁ)
セルヴァがカードを4枚捨てて、山から4枚引く。
カードを確認してからセルヴァはキュッと唇を結んでこちらを見た。
「……ツーペア」
「フルハウス」
「俺の負け、ですね」
セルヴァが感情を抑えた抑揚の無い声音で話す。
あまりいい事ではないとわかっていながらセルヴァの捨てたカードの端を指先で弾いた。
「あっ!」
「……これはまた」
見事に揃ったカード3枚に、ジョーカー。
このままで4カード、定石としては残りの1枚を捨てて5カードを狙うもの。
仮に5カードが来なくても、フルハウスよりも強い役だ。
ジョーカーを人差し指と中指で挟み、セルヴァの唇をツゥ…となぞる。
「……悪いコ」
わざと負けるなんて、お仕置きが必要だ。
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