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 大人はそんな不安定で未熟な彼らを導いてやるのが務めなのではないか。無意識だがそんな思いがあったのかも知れない。長谷川は少女の人生に関わることに決めた。道に迷ってしまったなら、俺が導いてやろう。それで救われるのは彼女ではなく長谷川自身なのかも知れないが。

「お嬢ちゃん」
「冴子」
「ああ…冴子ちゃん」

 数歩先を行く少女の髪は上下にふわふわと柔らかく靡いている。その度に袋がカサカサと音を立てた。

「あんまり小煩い説教をするのは性に合わねぇんだが…」

 少女の髪は上下したまんま、楽しそうに前を行く。警戒心の欠片もないのか。仕舞いにはそうさせている自分が悪いような錯覚に落ちてしまう。

「闇雲な家出っつうのは良くねぇと思うんだ。ましてやお嬢ちゃんみたいな年端もいかねぇ女の子がな。危ねぇにも程があるよ?」
「長谷川さん…冴子だってば」
「ああ…」

 あどけない声が返ってくる。もし自分が親の立場だとしたら気が気でないだろう。自分の娘が家出なんぞした日には。娘が得体の知れないグラサン野郎と夜更けに連れ添って歩いていようもんなら…。まずその男を血祭りにあげるだろう。親は子を心配して当たり前なのだ。それをこの少女は分かっているのか。

「理由もなく家出なんかしないよ」

少女はやっと話を聞く気になったのか、軽快だった歩みを鈍らせて小さく呟いた。

「その理由ってやつを聞かせてくれよ。おじさんにだって知る権利はあるよ?お嬢ちゃんの面倒見るんだから」
「……え、それって泊めてくれるってこと?」

小さな背中を見つめていた。その背がくるりと向きを変えて、少女の顔が街灯の元に照らし出される。大人ぶった化粧をしていても印象は幼い。幼いながらも背伸びをして生きているのだろうと思うと長谷川は切ない気持ちになった。

「どうであれもう真夜中だ。今から帰るったってな……。行くあてもないみたいだし、このまま夜道に置いてくわけにもいかねぇだろ?」
「ありがとう!!」

長谷川の言葉で、沈んでいた少女の表情が驚く程明るくなる。それを見た長谷川は、微笑み返すでもなく押し黙るしかなかった。


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