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夜中に突如鳴り響いた携帯に出てしまったのが運の尽きだった。さっさと寝ときゃ良かったもんを…
「ちょっと三井サン!人の話聞いてます?!」
「るせーな…こんな夜中に非常識なんだよおめぇは!」
電源切っとくんだったぜ…俺としたことが。
「で…10月31日が何だって?お前の誕生日だっけ?」
「うわ!ひどっ!!
アンタ俺の誕生日忘れたんスか?!
つーか覚える気ないよね…絶対」
「だから10月31日が何なんだよ!」
「ちょっとその前に…俺の誕生日言ってみてよ」
………かーっめんどくせぇ野郎だ。
覚えてる…っつーの。
「しちがつ…さんじゅういちにち。中途半端な日」
「あ…なんだ覚えてんじゃん」
チッ!!
「切るぜ」
「あー!!待てコラ!
ハロウィンすよ、ハ ロ ウ ィ ン」
「………………で?」
「trick or treatっつってね!」
「……なんだそれ」
そんな英語並べられても…。
「今から甘いお菓子もらいにそっち行きますから。」
宮城は要件だけを言うとさっさと切ってしまった。
ハロウィンだからお菓子をもらいに行くと言う宮城の言葉がいまいちよく分からないでいる三井は、電話が切れたあとも「はー?!」とか「なんだそれ?!」等と小言を言っていたが、渋々ベッドから起き上がった。
「あーっ!なんちゅう自分勝手な野郎だ……」
宮城と付き合ってから結構経つが、いまだに振り回されることの多い毎日。諦めたし、もう慣れた。
適当なジャケットを羽織り、財布と家の鍵をポケットに突っ込んで部屋を出る。
来ると言うんだから家の外で待つしかない。
この夜更けにインターホンを鳴らすことは流石にないとは思うが、どうせなんらかの形で外に呼び出されることになるんなら、自ら外で待つしかない。
「あー眠いあー寒い。ふざけんなよチクショー…」
ガチャリ
ふぅ、と一息吐いて玄関先に大股開いて腰を落とす。
「………ねむ」
待つ間、いろんなことが脳裏を巡る。
甘いお菓子をもらいにと言われても家にソレがないもんだから、財布を持って来てしまってる自分にほとほと嫌気が差してしまう。
近くのコンビニに寄れるようにと………。
気づけば貧乏揺すりが止まらない。溜め息も何度となく吐いて、眉間のしわも寄るばかりだ。
それでもやっぱり嬉しいもんだから…
恋人が自分に会いに来るということは。
素直に嬉しい。
ただそれをうまく表現できないだけの話で。
どれくらい待っただろうか、時間にすれば15分かそこらか。
ぼんやり考えていたから半分寝入りそうになっていたが、
名前を呼ぶ声と共に肩を叩かれ、引き戻された。
「お前…走って来たわけ?」
「だってアンタ待たせると怖いから」
「そこか……?!
この夜中に呼び出すことがまず問題なんじゃねぇのかよ」
「まぁまぁ」
宮城は三井の抗議も軽くかわして、ちょっと付いて来て下さいと、三井の手を引いた。
夜も更けたとは言っても、人通りがないわけでもない住宅街に二人の男が手を繋いで歩く姿はどのように写るのだろうか…
三井は気が気でない様子で、しきりに辺りを気にしている。
「そんなに気になるんなら手、離します?」
「…………」
「堂々としてりゃ誰も見やしませんて。そうやってキョドってるから怪しまれるんスよ」
確かに。
うっと言葉に詰まり、握る手に力が籠もる。
「俺が近所でホモって噂が広まるのも時間の問題だな」
な?と鋭い視線が宮城を見下ろすが、その視線に満面の笑みで返す男。
「だってホントのことじゃん」
宮城のニンマリ笑った顔は可愛いが、小憎たらしい。
「あのな、俺はホモじゃねぇの」
「じゃナニ?」
「……………」
「俺のことが好きなのに?」
「…………」
「好きっしょ?」
その問いかけには応えなかったが、赤面する三井の姿で宮城は満足気な表現を浮かべる。
付き合う同士が好き同士なのは当たり前の話で大前提で…けれど三井は自分から好きだとは言わない。言おうとはしても、その前に勇気が折れてしまうから。
男を相手にして“好き”の一言を伝えるには勇気がいった。
けれど…好きだ、と思う気持ちに偽りはないはずで。
「……だから…お前がそのアレだから……お前だけだから。ホモじゃねぇんだって」
「や……それおかしいっスよ色々。死ぬほど嬉しいんだけど」
じゃあ死ねと茶々が入るけれど、どっちも認めたくないだけなんだろ。
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