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そんなんじゃきっと
俺以外にも間違いを起こしちまう奴がいるって…。
そこまで思考を巡らせて俺は息苦しくなった。
“俺の想いは間違い…?”
俺だってまさかこの人に…いや野郎を好きになるなんて思ってもみなかった。
けどこの人は何かが違った…
今思えば、あの殴り合いの喧嘩をした後からもうすでに
俺はこの人を目で追っていた気がする。
何をするにも頭から離れなくなり始めてからは早かった。
俺の気持ちが暴走するのは…
練習中にも何度か目が合って、その度に俺は必死で平静を装ってきたんだ。あんた分かってる?
ニカッと笑ってから口もごもご動かして「集中しろよチビ」って中指立てて言われたとき、目をそらしてしまった。
いつもみたいに冗談で返す余裕もなくなってたんだよ。
あんたはいつまで俺を翻弄するつもり?
俺は彩ちゃんが好きだったはずなのに…どっからこんなふうになっちまったんだ…
俺は三井さんを睨みつけた。
俺の腕を掴んだままベンチに押し倒した宮城は
俺と視線を外そうとはしない。だから俺も宮城を見据えたまま硬直した。
逃げようと思えば逃げられるのに疲労感からか、体が思うように動かない。
宮城がこんな今にも泣き出しそうな顔をしてなかったら、ニ三発殴ってるところだが。
「三井さん。嫌だったら思いっきり暴れてくんない?じゃないとこのまま犯っちゃうよ俺。」
すっかり宮城の切羽詰まった気迫に押されて圧倒されていた三井は、ハッと我に返ったように目に力を込めた。
「てめ。どけってんだよコラ。なに血迷ったことぬかしてんだ。」
精一杯ドスの効かせた声で平常心を保とうとするが、鼓動は速さを増していく。
“こいつの目…血走ってやがる…”
俺は本格的に自分の身を案じた。
「ちょ、ちょっと待てタコ!!
お前は……」
しどろもどろになって吹き出す汗に視界が曇っていく。すさまじく暑い。
「あ?」
口ごもる三井に宮城が苛立った口調で急かす。
「お前は俺のことが好き……」なのか、と言おうとして吐き気が込み上げた。
「おぇぇ…っ」
俺は思わず口元を自由の効く左手で押さえた。
演技じゃなく、本当に凄まじい吐き気が俺の胃を締め付ける。
長時間の練習と、この緊迫した予期せぬ事態と、耐え難い暑さとで、俺の体が条件反射的に拒否反応を起こしたようだ。
はっきり言って俺はまだこの事態を飲み込めてねぇんだ。
なんで俺はここでこのチビに押さえつけられてんのかも。
頭がまわらねぇ…。
苦しい…………やばい。吐く──
「三井…さん?」
そんなに俺が嫌なのか?そんなあからさまに拒絶しないでよ。それだったらまだ殴られた方がましだ。
俺に迫られて、吐きそうになるほど嫌かよ。
俺は腹の底から込み上げるものと必死に格闘していた。今ここで無理やりにでもこの人を抱きたい気持ちと…。
嫌なら抵抗しろとは言ったものの、拒絶されたショックは計り知れないものがある。
“ここまで俺はこの人を……”
先の見えた結末に
胸がチリチリと痛んだ。
─この想いは報われない。
俺は三井さんの腕を離し、身を引いた。
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