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1.間違い-Mistake-


「あっちぃ…」


日も落ちて暗くなり始めた体育館に、キュッキュッとバッシュの擦れる音が響く。
三井は失った2年間を必死に埋めるため、こうして部員たちが帰ったあとも一人残っては練習しているらしい。


額からは小粒の汗が滴り落ち、それをサッとタオルで拭うと部室へと一人歩き出した。

そして彼の行動の一部始終を観察する男が一人。



「‥‥‥‥」


夏と言えども8時をまわれば辺りはすっかり暗い。
暗がりの中、制服姿の宮城は三井の練習する様子を見ていた。


「‥駄目だ」

小さく言うとごほっと咳き込む。

“こんなもんじゃ全然足りねぇ。
今までのぶん取り返すには”

部室内のベンチにドカッと乱暴に腰掛けると、きつく目を閉じた。

つぅーと額の汗が顎に流れ
溜まった滴がまた、ぽたりと膝へと落ちていく。


《ガタッ》


びくっ―…

「誰かいんのか?」

背後の暗がりでした小さな物音に再び瞼を開く。


「ウス。」


扉に手をかけチラッと顔を覗かせる人影が、小さく手を上げ三井を見下ろしている。
明かりに照らし出されたその顔は見慣れた顔だった。

「宮城。おまえ何してんだよここで。」


「それはこっちのセリフっスよ三井さん。」


ぽかんと目を丸くし見つめてくる三井が可笑しく、宮城は小さく笑ってみせる。

《ガラガラ…ぴしゃ》

部室内へと入ってくる宮城を見遣りながら「ああ…」と零す。


「三井さん体力ないもんね」


へらりと笑うと三井の隣に少し空間を置いて腰を落とす。

「るせっ
だからこうやって練習してんだろが」


渋い顔をしながら流れる汗を拭う。



シーンと静まり返った部内は
三井の体から発せられた熱でしだいに生ぬるく籠もっていく。
相変わらず茶々を入れてはくるが、いつになく無口な宮城に三井は視線をやった。

「で、お前はなんでここにいるんだ。


………

あ、お前アレだろ。彩子に振られて俺に泣きついてきたな?」

思い詰めたように押し黙る宮城に悪戯な含み笑いを見せる。


「違うッスよっ。
そーだったとしても何で俺があんたに泣きつかなきゃなんねぇんだ。」



眉を膨らませムッとする宮城をよそに
座ったまま前へ屈むとバッシュの紐を解き始める三井。

「じゃーなんの用だ」

素っ気なく返される言葉。いや、この人はいつもと何も変わらない。いつも素っ気ない態度で我関せず、といった感じだから。


「…三井さん。あんたに話があるんだ。」


「あ?」


ほらな。やっぱり怪訝な顔をされる。
まぁ無理もないか…野郎に見つめられて良い気のする奴なんかいない。

分かってはいても
俺は真剣な眼差しで目の前のデカい奴を見つめてる。いや、睨む、の方が正しいかもしれない。


“俺はどうやら
あんたのことが好きらしい”


口にだしては到底言えそうにもない言葉を俺は何度も飲み込む。

自分で想像するだけでも気持ち悪いのに鈍感なこの人にこんなこと言ったら
一体どんな顔をされるだろう。


俺は柄にもなく
それが怖がった。


この人の顔が俺のことを“変態”ってな目つきで見てくることが怖い。




―言えるわけがない―



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