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「おい。体が勝手に動く。なんとかしろ…」

決して頬を赤く染めることもなく、少し困ったように言う。無論本当に困り果てているのは逸物を握られた三井なのだが。

「ナニ?!何とかして欲しいのはコッチだっつぅの!」

流川とは正反対に顔を真っ赤にして掴みかかる三井。怒りなのか照れなのか…半々といったところか。羞恥心でいっぱいなのに事の原因を作る本人があっけらかんとしているのが何とも腑に落ちない。

そして一つの不安要素。このまま握られたままでいれば、そう。生理的な反応を示してしまうことになる。こればかりは三井本人にもどうしようもないわけで、一刻も早く流川の手から逃れようと、強めに力を入れ流川を引き剥がした。


(あっぶねぇ……)




はぁ…と安堵の息吐く間もなく、流川が三井に覆い被さろうと抱きついてくる。

「ちょっ たんま!お前おかしいって!!離せバカッ」

バシバシと流川に肘鉄食らわそうが蹴りを入れようが止めようとしない流川に、三井も様子がおかしいことに気づく。


「オマエまじに勝手に体が動いてんの…?」


「……そうだっつってんだろ…痛ぇな…ったく」


眉間に皺を寄せつつも三井に抱きついたまま離れようとしない流川に益々混乱する。


「まさか…豹憑ってやつか…?」

そのまさかは当たっていた。どうやらこのエレベーターに取り憑いている霊が流川の波長と合致し、豹憑したと言うことらしい。他に妥当な理由も考えられない。


「アンタ好かれちまったんじゃねぇの。」

「………(言うなよ)」


「霊に。」


(……。言いやがった…しかも軽々と!)


どうやら三井に好意を示した女の霊が流川の体を借りて三井に接触を試みてきたようだ。


「俺はどうすりゃいいんだ?」


三井はすがるような想いで念を唱えるように胸の前で両手を組む。流川はなおも三井を抱きしめながら、少し考えてから言い放った。


「…………とりあえず気の済むまで触らせてやれば。飽きて消えるかも」


「は?!」


これには三井の涙混じりの目がかっ開いた。目はふざけんじゃねぇぞと息巻いている、が、実際流川には仕様もない。

(なに人事だからって言っちゃってんのこの人…っ)


「神さま仏さま大仏さま女神さま……どうかお救いください……この哀れな美青年を……(つうか成仏させろ)」


(女に触られんならまだ許せるとして
コイツになんで黙って触られなきゃならねぇんだよ)


「物好きな霊だな」

そう言いながら三井の頬に触れて流川の顔が近づく。

これには三井の怒りも頂点に達し


「さっさと成仏しろ!!!」


…キツい拳骨を食らい流川は気を失った。

そして次の瞬間、パッと切れていた蛍光灯が息を吹き返し、エレベーターが動き始めた。


「…まじで成仏しちまった…か?」

流川に目線をやるが伸びている。





さっきまでの出来事がまるで嘘のように、エレベーターは最上階で開き、2人は外の世界へと生還した。
ふと腕時計に目をやれば、ここに着いた時刻から1時間半ほど過ぎたところだった。

もっと長くに感じたが、三井は流川を支えてその団地を後にした。



―次の日の部活


「ぎゃはははは!!すげぇ!!腹痛ぇっ」

宮城が着替えの途中で腹を抱えて笑うのを三井が拳を握りしめて睨みつけている。


「笑うな!!」


「だって…っ
三井サン、モテモテじゃないスか」

ぶはっと二度めに吹き出した時には三井に首をしめられた。

「うぐっ」


「オマエも成仏させてやろうか…?ん?リョータくん」

「ご、ごべんばばい…(ごめんなさい)」


「しっかしあのルカワに霊が取り憑くとは…」

花道が、2人の間に入る。三井は流川に迫られたことは話さずにいた。

「やはりアイツはキツネ憑き……」


「誰がキツネだ、どあほう。」


じゃれ合う三人の横を涼しげな顔で通り過ぎて部室から去る流川。三井は思わず黙り込む。
「ぬ、ルカワめっ」

わーわー騒ぐ花道の横で宮城が三井の様子に気づき怪訝な表情を見せる。


(流川の野郎……三井サンと2人っきりになるなんて…羨ましすぎる)


全く見当違いな宮城だったが、三井は複雑な気持ちだった。


(もう二度とあんなトコ行かねぇ……)








こうして一件は落着したが、結局幽霊の正体は定かではない。

ともかく三井はその後何日も悪夢にうなされることとなるのであった…………




END.



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あきゅろす。
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