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「や……だめっ」

 お腹にひんやりとしたものが触れて、肌が粟立つようにぴくりと震えた。楓の手は冷たくて、私に触れることで体温に溶けていくように優しくなった。

「……夏樹」

 名前を呼ぶ声が余りに優しくて、顔が燃えるように熱くなる。そっと横たえていた頭を前に向けると、サイドテーブルからの灯りにほんのり照らされた楓の顔が数センチ先にあった。その顔が真顔で「可愛い」なんて言うもんだから、私は照れ隠しに眉を潜めて素っ気なく応えるしかなかった。

「うっ、うそつき……」
「嘘じゃねぇよどあほう」

 だって。いつもからかってばかりいるくせに。気恥ずかしくてしょうがなかった。目線のやり場に困るし、こんな時に言わなくたって、って思う……。だってあの楓の口から“可愛い”なんて言葉が聞けるとは到底思えなかった訳で。ましてや誕生日プレゼントが私でいいなんて。そんな百戦錬磨のタラシ男みたいな台詞……頭のなかが落ち着かないままお腹に触れていた手は、胸の辺りにまで上り詰めてくる。その手が背中に回り、ブラのホックを外そうとして、声を出そうとしたら楓の唇が私の唇に触れた。押し付けるような口付けに、何も言えないまま、何かを考える間もないままに深く舌を絡め合った。


 驚いたのは言うまでもなく、楓ってこんなにキスが上手いんだっていう衝撃を受けて……少しショックだった。楓はこうゆうことに不器用でいて欲しかったなんて。

 色んなショックが渦巻いて、舌先も震えるし身体は釘を打たれたみたいに固くなるし、自分の身体じゃないみたいだ。長く長く舌先で触れていたと思う。水の切れるような音の後で、甘い痺れが遠退いていく。

「か、楓」

 背中に回されていた手はいつの間にか太股を這っている。私はまともに声にすらならない状態なのに楓の手は器用に服を脱がせていった。

「私ばっかりずるいよっ」

 楓は私の身に纏っている最後の下着に手をかけて、何が?という目を向けた。楓の目には顔を赤くした私が映ってるんだろう。けどもっと恥ずかしかったのは……楓が全裸になったことだった。下を脱いでいるところは流石に見てない(見れない)。見てはいないけれどベッドにつかれた両腕から肩にかけては紛れもなく生肌で。

「脱いだ。これでいいのか?」

 なんて聞かれても、既に赤くなるどころの事態ではなくなっていて言葉にはならなかった。首筋にキスが落とされて、太股を掌が這うのを感じる。

 楓の唇は柔らかくて、心地好くて、自分でも驚くような甲高い吐息が漏れた。

 いつかはこんな風に触れ合える日がくるとは思っていたんだ。いつかは、今までの幼稚な関係から脱け出せるんじゃないかって。楓とはもっと深いところで繋がりたいと、思ってた。

 でもね……幼なじみだったから……小さい頃から知っているから、今楓と抱き合ったならその関係が壊れてしまう気がして少し怖い。

「楓は……私のことどう思ってる……?」

 楓の気持ち、ちゃんと言葉にして伝えて欲しいと思った。ちゃんと好きって言われてない。ちゃんと付き合えてない。まだ何も、楓の口から聞いてないんだ。大事なこと。ただ楓の側にいて、楓の身の回りの世話をしてるだけじゃほんとただの家政婦だから。

「私のこと、すき?」

 私の声は酷く自信なさげに聞こえた。正直、自信がなかったから。楓は先に進むのを止めて私を見た。少し驚いたような目だった。

「なんで今さらそんなこと聞く?」
「今だから聞いてんの」

 だって私にとってとても大切なこと。今日は特別な日だから今聞かなきゃこの先ずっと曖昧な関係が続いてく気がして。

「楓、ちゃんと言ってくれないじゃん……。いつも意地悪ばかりして」

 楓は意地悪っていう言葉に反応して、いつも無表情な顔を不機嫌にした。

「悪かったな……。分かりづらくて」
「え……?」

 私が聞き返すと、「だから」と声を少し大きくして「好きって気持ちが伝わってなくて悪かったなって」、そう言ってまた嫌そうな顔をした。楓の口から初めて聞けた好きって言葉。私は正直泣きたくなるほど嬉しくて胸がときめいてしまった。

 「じゃあいつも冷たいこと言ったり意地悪するのも楓なりの愛情表現……?」

 私は嬉しくて、嬉しくて、漫画のヒロインなら両手を胸の前で組み合わせてキラキラ目を輝かせている、そんな表情で楓を見つめていた。楓は単純な私を見下ろして呆れているみたいだけれど、目は優しかった。

 近付く楓の柔らかい前髪がくすぐったい。そして私は耳元で「どあほう」と言われて、またバカみたいに胸をドキドキさせるのだった。

 やっぱり楓は意地悪だ……。
でも、だから好き。



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