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「楓さん楓さん……お、おち落ち着いて(むしろ落ち着け私)」
「俺は……落ち…着いてる」

 赤面だけならまだいい。リアルな話、緊張しすぎて吐きそうな程に胸が痛いのだ。胃じゃなくて胸が痛い。冷や汗までかく始末。流石に楓も照れ臭いのか声が上擦っていた。初めて楓の緊張が伝わった気がした。いつもあまり感情を表に出さないで堂々としている楓も緊張することあるんだ……。そりゃエッチするんだから誰だって……

 とそこまで考えて驚愕する。するの!?え、するの!?これってする流れでしょうか!?ダメダメダメダメ!それはいかんよ流川楓……!ってほんとに

「……するの?」

 消え入りそうな声で、今度は楓の目を真っ直ぐに見て言ったが反らされてしまった。

「そんなこと聞くな」
「何もする気ないんじゃなかったの!?」
「そんなこと言った覚えはねぇ」
「うそうそ言ったよ!何すっとぼけてんの……」
「……したくなったもんはしょうがねぇだろ。……悪いか」
「し、した!?」

 しょうがなくないだろ……!
信じられる訳がない。あのバスケバカが、あの私を家政婦としてしか見てなかったような人使い荒くてデリカシーのないあの楓が……これだから男って不潔よ───ッなんて一人脳内で漫談をやっている場合でもなかった。えらいことになってしまった。やはり最初に危惧していたことが……現実になってしまったのだ。

「あんた寝るって言ってたじゃん!早く寝……」

 のし掛かってくる楓の顎を腕で受け止めて、視線を横斜め後ろへと倒すと目覚まし時計の針は既に日付を回っていた。

「あああ〜っっ」
「なんだよ……」
「もう過ぎちゃったじゃんバカ!」
「だから何が」
「楓の誕生日……12時ちょうどにおめでとうって言うはずだったのに」

 私は悔しさの余り足をばたつかせて掌で顔を覆った。紅白も最後まで見れなかったし除夜の鐘だって毎年聞いてたのに今年は逃してしまった。その代わりに楓がいる。私の上に。

 楓が私の上に覆い被さっているこの光景が不思議でたまらない。楓の気持ちだってまだはっきり分からないっていうのに……。ちゃんと聞かせて欲しい。あやふやなまま流されてばかりいるのは嫌だ。

 考えている間にベッドが軋んで楓の顔が離れていく。服を脱ぐ仕草はこれまで何度も見ていたのに、今はそれが異様な光景のように思えた。

「なんかくれんのか」
「え……?誕生日プレゼントのこと?」

 小さい頃からの付き合いだから、誕生日にあげるプレゼントのネタも底を尽きてしまい、今年は楓に欲しい物を聞いて一緒に買いに行くつもりでいた。長い付き合いでも楓のことに関してはまだまだ謎が多い。好きなものも嫌いなものも限定されていて、中間が余りないからだ。好きなものはバスケ、睡眠を貪ること。嫌いなものはミーハー、睡眠を邪魔されること。だからバスケに関するプレゼントはもうネタが尽きてしまっている。

「……それがね、楓が今欲しいものって何か分かんなくてさ」

 私がそう言うと、楓の前髪がさらりと胸元に垂れ掛かってきて

「じゃあお前でいい」

 そう言った。それは雑作もない口振りで、楓の艶っぽい声は悪戯に私の胸元をくすぐった。



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あきゅろす。
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