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リョータは複雑な表情のあと小さく笑った。


笑ったのはきっと私がいるからだね。


「へぇ。お前彩子が好きだったんじゃねぇのかよ」


うわお………。
こんなデリカシーのない発言するのは三井先輩しかいないけど…。
私が聞きたかったことをすんなり代弁してくれたことは有り難い。


「バカみっちー!!
そーゆうこと普通言うか?!」


「な、バカ?」


私はリョータをじっと見つめて。


その視線をリョータも感じてるはず。


いつもみたいに軽いノリが感じられない。


やっぱりリョータも相当な決心をして私を選んだんだと思う。

「お兄ちゃんはデリカシーないんだから…」

「ほんと幸せな人っスね」


そう言ったリョータに笑顔はない。

三井さんも流石に周りの緊迫した空気を読み取ったのか、それ以上突っ込んだことは何も聞かなかった。


あの流川も、ずっと黙っている。

いや…この人はいつも通りかな…


少し輪から外れて、クールに話の流れに身をまかせてるって感じ。


「じゃあ私の相手は流川で決まりね」


そう言った彩子は、流川の乗る自動車の後ろに座った。


リョータは……黙ってる。

暗くていまいち表情は分からないけど

それが救いかも知れない。


あからさまに悲しい顔されたら

私だって傷つくから。


「んじゃ、行こうぜ」


いろんな感情を振り切るみたいに、リョータは私の手を引いた。


今どんな顔して何を想ってる?


リョータは先頭をきって走っていた桜木花道を追い越して


一番前を悠々と走る。


前を走るのは
彩子のうしろ姿を見たくないからかも知れない。


もう追いかけるのは、本当におしまいにしたのかな。



ずっと欲しかったリョータの全て。


こんなにすんなりと手に入ったリョータ。


でも…私はリョータが彩子に片想いしてる姿を見てるのが

辛かったわけじゃないんだ。


リョータの楽しそうな顔、見てるのが好きだったから。



ほんとにこれで良かったの?


聞きたいけど

これは私が聞くことじゃない気がした。

リョータは長かった片想いを蹴ってまで

私を選んだから。


私はその気持ちを受け止めればいい。

例のトンネルに到着して肝試しの最中も

私は何度も言葉を飲み込んだ。


どんな言葉をかけてもリョータを傷つける気がしたから。


「リョータ…」

「ん?」

「なんでもない…」

「んん?」

「………」

「俺じゃ頼りないって?」

ニカッて笑ったリョータはやけに大人びて見えて、繋がった手は熱くて大きい。

「違うよ…リョータはすごい頼りがいある」


「んじゃ何でそんな仏頂面してんの」


…仏頂面って…
そりゃ私は可愛げないし、彩子みたいに美人じゃないよ。


こんな浅はかな嫉妬が、私をさらに醜くしてるのかも知れない。

リョータの前でだけは、私だって恋する乙女でいたいのに。

可愛い女でいたいのに。


「彩ちゃんのことだろ」


「好きなんじゃなかったの?」


「好きだったよ」


「今でも好き?」


「好きなのは好き。けどその先はないから」

先がないから、私で収まっとこうって?


そう言うことなんでしょ。


なんだろ。腹が立つ。
彩子がダメだから私でいいやって?

私が今までどんな気持ちだったか分かってない。


ふざけんじゃねぇ。


私はそれ以上進むことを止めた。

もう歩いてやらない。

私だってリョータの後ろ姿ばっかり見たくないんだよ。


誰よりも一番近い場所でリョータのこと見てきて

誰よりも知ってるつもり。

なのに隣にすら立ててないよ。


リョータがそんな簡単に彩子のこと諦められる訳ないじゃない。


「私やっぱリョータと付き合うのやめとく」


「……」


なんでそんな顔する?
わかんない。やっぱわかんないリョータの考えてること。


「………リョータのこと、幼なじみ以上に見られそうにないから」


優しい嘘になればいい。


「それに背の低い人って男として見れない」

トドメの言葉。
リョータが一番気にしてること。
これで友達関係もきっと終わる。
でもそれで私は解放される気がするんだ。

彩子には振り向いてもらえなくて
まさか私にまで振られるとは想わなかったかな。

リョータは立ちすくんだまま、俯いていて何も言わない。



「…リョータ…?」


まさか泣いてる…?


「ごめんっリョータ…言い過ぎた…」

「ごめん……ごめん……」


リョータの口から何度も繰り返される謝罪の言葉。

こんな情けないリョータ見たことないよ。

気づいたら暗がりのなか、リョータを抱きしめていて


私もわけわかんないうちに泣いていた。


「俺……利用したかも知れない…」


…利用。それにはズキンと胸が痛むけど…分かってたことだよ。

私はリョータの背中をさすってあげた。

情けない男だね…。


「分かってるから…。利用でもいいよ。ごめんね……私、リョータのこと好き」


リョータの言葉が途絶える。
たぶんまだリョータは迷ってるんだ。


「でもリョータはまだ彩子が好きでしょ?正直に言って」


「………好きだ。けどもう無理」


「私のことも好き?」


「好きだよ。だから苦しいんだ」


リョータは寂しくて死にそーだって泣きついた。

私を抱きしめて、胸に顔を埋めて。



「無理するからこーゆうことになるんだよ?分かってる?
私を傷つけてることも、ちゃんと分かってる?」



「……ごめん…俺最低だな」


「うん。最低だねホント」


そのあとリョータは滅茶苦茶に凹んで、うなだれた。
こんなダメ男、私じゃなきゃ分かってあげらんない。


「私ならリョータに寂しい想いさせないのに。こんなバカなことしても許せるのに」


「え…それってどうゆうこと?」


「彩子をあきらめられるまで、私に甘えていいよってコト」


てゆうか、忘れさせてみせる。


私はリョータの唇に口付けた。


「なんか夏樹って大胆っつーか男前っつーか…」


「リョータは外見の割に甘えん坊なんだよね」



気の済むまで甘えていいよ。


リョータを甘やかすのが私の役割。


それでいいや。
私なりに幸せ感じてるから。


「そんなこと言って俺がいなきゃダメなくせに」


やっと普段の強気なリョータが戻る。
大丈夫なんだよって、私がついてるからって抱きしめてあげたら

充電完了。


リョータってそんなとこある。
大人びて見えたり、子供っぽかったり。
私はリョータのいろんな表情(かお)
沢山見てきたんだ。


「そうだよ。リョータがいなきゃ……」

こんな怖いとこ歩けないよ



「トンネルを抜けるまでは、しっかり私を守ってよね?!」

「ハイハイ」


END.

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