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とうとう夜の学校に潜入成功してしまった私たちは、とりあえず当初の目的を果たすべく
各々、男女でペアを組んで校舎の中を散策することにした。


私はもちろん花道と。

校舎の中へは思ったよりも簡単に入れた。
一つは開いているものなんだ。
校舎の窓。学校の警備体制って案外手薄だったりするんだなと思いながら、花道の後につづいた。

「ねぇ花道」

「んぁ?」

「さっき晴子ちゃんじゃなくて、私を選んでくれたね」

「ったりめぇだっ…俺は夏樹と付き合ってんだから」

そう言って私としっかり手を繋いだ。
これには驚いた。
こんなにはっきりと聞けるとは思わなかった。花道の気持ち。

今のは私にとってはほんの意地悪のつもりだったのに。
またいつもみたいに戸惑うものだと思ってた。

「ありがと…」

校内に漂う独特のゴム臭いにおいに、花道と繋いだ手の熱さ

私のかすれた声に花道のよく通る声。

非常口の緑の光と、窓から差し込む月の光に星の輝きだけが頼りで

花道に寄りかかる。

大きな体…

「花道……」

「?」
「優しいね花道は」
「ん?! なははっまぁなっ」


触れたい
触れてほしい
もっと花道の声が聞きたい

歩き慣れたはずの私たちの校舎は、暗がりの中では全く別の場所のように思えた。

隣に花道がいてくれるから怖くなんかはない。本当。
ただ不思議な感覚に包まれていた。
私の歩く音と花道の歩く音は重ならず、コツコツコツコツと響いてる。

トイレの前に差し掛かり、この先の階段を降りようとした時、ふいに尿意を覚えた。

どうしよう…トイレに行きたい…

立ち止まる私につられて繋がれた腕がピンと張る。

「なんだ?」

「…………」

何も言わない私に怪訝な顔をして覗き見てくる花道と目が合う。

「…トイレ…行きたいんだけど……」

その一言で理解したのか、花道はハッとして、一瞬だけ照れたように視線を泳がしてから女子トイレの前まで戻ってくれた。


「じ…じゃ、俺ここで待ってるから…」

「うん…ごめん」

離れた手と手。

トイレに明かりは灯ってはいない。暗くて足元すら良く見えない。

怖い。

私は個室に入り、さっさと済ませようと下着を下ろしてしゃがんだ。

急いでトイレから出る、けど花道の姿がない。

え?えぇ?!


「花道!!」

思わず叫ぶ。

「どした?!」
「わっっっ」

すると死角になった階段の方から花道が飛び出してきた。

「びっくりしたぁっ…」
「すまん…座って待ってたんだ」

心臓がバクバクと早鐘のように打ち付けてる。
胸を抑えて、しばらく俯き加減に鼓動を落ち着かせる。

「いなくなっちゃったかと思った...」

「う…すまんっ」

花道はそのあと何か言いたげに私を見つめてきた。

「なに?」

「……夏樹可愛いなと思ってよ」

心臓がきゅううとなる。
顔、たぶん赤い。

「その……ちょっと、抱きしめて、いいかな」

「えっ…?」

花道も相当気恥ずかしそうに赤い頭を何度か触りながら見てくる。

私が俯くと、右手をひいて階段に私を後ろから抱きしめる形で二人で座った。


私の背に密着して花道の厚い胸板がある。花道の腕が私の体を抱きしめる。

さっきまでの身が外気に晒されてる恐怖感は、驚くほどに引いていく。花道の鼓動もすごく早い。
ドクドク言っている。
熱い。熱い。溶けそうだ。
花道の匂い。花道の腕の力。
全部が直接肌に伝わってくる。

や、なんだろこの感覚。
この気持ち。今、すごく幸せ。
ずっとこのままこうしてたい。

花道は何を想ってるかな。
指に触れて、そっと握ってみる。
自分のと比べたら、本当に大きな手。この手でいつもボールを…

「夏樹の手、こんな小さかったんだな」

「花道の手が大きすぎるんだよ」

私の手は花道の手の中に全部収まってしまった。



「ああ駄目だ、夏樹可愛すぎる…このままじゃ変なことしてしまいそうだ俺…っ」

「何言ってんの花道っ」

思わず吹きそうになってしまう。だってあまりにも切なげに言うもんだから。花道になら何されたって構わないのに。分かってないな…。


「ふぬぅ〜…にしても女の子って柔らかいな」

「それは男の子を包み込むためだからね」

「なるほど。だから夏樹に触れたくなるのかもな」


そんな他愛もない言葉を交わして、私と花道は夜の学校で初めてキスをした。







いろんな花道をたくさん感じた肝試しの夜。

まずは私のいちばんの記念日。



END.

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