[携帯モード] [URL送信]


▼三井side


ああ。


眠かった目も



覚めたぜ。




完全に。





なにやってんだよお前は………。

デコピンでも食らわしてやりてぇとこだが見えないんじゃ仕様がない。


まずは懐中電灯を探すか、優子を探りあてるか、どっちが早ぇかなと考える。



「先輩…っ……」



「待てって!」


「……怖い……死ぬ!!!」



死ぬかよ…。
とりあえずは優子の悲痛な声を無視できず、俺は優子を探した。



「ちょっと声だしてろ」



声を頼りに探せばすぐ見つかる。

ほぼ同時に至近距離で倒れて、何メートルも離れるわけがない。


まだすぐ側にいるはず。


「……っ…なんで肝試しなんかしなきゃなんないの!!!」


「なー。」


「もー絶っっ対!!
二度と!!肝試しなんかしません!!」


「おう」



死ぬだとかイヤだとか、喋るなと言っても止まりそうにない肝試しへの怒りをぶつける優子の声をすぐ側にまで感じる。


そのまま地に手をついて膝で這いながら進んだら…


温かな優子の感触を指先にとらえた。



「もー気ぃすんだか?」



声をかけてやると、一瞬ビクついた体が、何を血迷ったか必死に抱きついてきた。

引き剥がそうとしたが、掴んだ肩が微かに震えていて
タイミングを見逃してしまった。


「よく泣く女だな…」



「………怖がっだんだもん」


と、濁点がやけに多い。
そりゃあな、俺だって怖くないかと言えば嘘になるけど


こんな風に泣いて抱きつかれたら


怖がってる暇もねぇよ。



「よしよし、もー大丈夫だ。ホレ、」


懐中電灯も手で探れば案外すぐ側で見つかった。

スイッチを入れて、パッと周りを照らす。






▼優子side


「コレもあったぜ。お前のすぐ近くに」


ぷら〜んと懐中電灯を目の前で吊らして、何か言いたそうな顔が近づいてくる。

この場合何か言わなきゃならないのは私の方なんだろうけど…顔が近くて言うに言えない。


「なんか言うことあんだろう?」



「……ありがとう先輩。そして、ゴメンナサイ」


醜態を曝しまくった自分が情けない。


「おう。分かりゃいいんだよ」


先輩お決まりの仏頂面は相変わらずだけど、二三度私の頭に置かれた手の平が


優しかった。

立ち上がろうと前かがみになると、
先輩が私の腕を引いて抱きしめてくる。

じっとしていた方がいいみたいだから…そのまま私は先輩に抱かれる。


「先輩」

「……あ?」


「……そんな怖い顔しないで下さいよ…」


「悪かったな…イカツくて」


「もっと優しく抱きしめて下さい」


気恥ずかしそうに顎の傷跡を撫でてから

私をあやすように背中に置いた手を上下させる先輩…。


抱きしめられるって、こんなに心地良いものなんだって改めて気づいた気がする。

余計な音もなく

視界の邪魔になるものもなく


ただ、この手で触れれば温かい。





心臓の音


凄まじい速さ。


先輩のも
私のも





窮地を共にした恋人同士は

堅い絆で結ばれると言うけど。


それが本当なら、いいのにな。


「優子、今度は2人きりでどっか行こうな」


「はい」


「どこがいい?」


「……先輩のお部屋」








初めてだらけの1日だった。

先輩の意外な一面が見られたり

抱きしめられたり


こんなに長い間、手を繋ぐのも初めてで



何もかもが新鮮で真新しい。




こんな風に共有の時間を過ごせるのなら


肝試しも悪くはないなと思った。






END.

[前へ*][次へ#]

13/19ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!