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視界が悪ければ、五感が冴える。


それはここへ来てから重々感じていたことだ。


この体と体が密接した状態であると、心臓の音も丸聞こえである。



怖い幽霊も恐ろしいが、自分の身がいつまでこの密接した空気に耐えられるか、自信がない。



というか、すでに私の異変は相手へと伝わっているようで、さっきから先輩からのガキっぽい嫌がらせが続いている。


この人は恐らく、私のこの体の硬直を、恐怖感からくるものだとしか思っていないようだけれど


原因はあなたですよ、アナタ。


しかしこの人は暢気に鼻歌なんか歌っちゃって…


チラリと見上げれば、懐中電灯をグルグルと回して熱唱する先輩の姿がある。




「先輩…っ
さっきからうるさいですよ!ちょっと静かにして下さいよ……」


サビのところで制止させられたのが不服だったようで、眉がすっかり寄せられている。


「俺の美声がうるせぇっつーのかお前は」


「うるさいです。そして耳障り。」


先輩と私の軽い睨み合いが始まり、また私がいつもの様に先輩を言い負かす。


先輩と口で勝負して負けたことはない。

そうなると先輩はスネていじけるので、
すっかり押し黙ってふてくされてる先輩の手を、今度は私がグイグイ引っ張って歩く。



「先輩!…ちゃんと歩いて下さいよっ…!」


「あーつまんねぇ……あーだるい」


「子供みたいにダダこねないで下さいよ…もう」




そんなに体を反らされたら、体重を支えきれません…!


「お、重い…」


先輩とつながった腕がピンと張り、先輩のいくらかの体重が伝わってくる。


「宮城の野郎つまんねぇこと計画しやがって……。何が楽しくてこの真夜中に、こんなとこうろつかなきゃなんねぇの」


地面を見つめながら歩く先輩は、本当に子供のように見える。

まあ確かに成人はしていないから、実際子供であることには違いないけれど


先輩の風貌は大人のソレであるし


身長も高くて体格もいいから、こんな風にして背中を丸められると不格好になる。


私が先輩の手を引く姿はまるで、母親が子供を連れて歩く姿にそっくりだ。


「眠い……」


後ろでそう小さく呟かれて振り向くと、本当に眠そうに瞼をシパシパさせる先輩の姿がある。
「先輩ぃ〜…っ
しっかりして下さいよ〜っ!」


「ん…悪い悪い」


俯いたままの先輩の手を、ユラユラと揺り動かすと、起きてる起きてると適当な返事だけ返して、また俯く先輩。


今にも眠ってしまいそうなその有り様には説得力がまるでないけど…


私たちはひたすら歩き続けた。



歩き続けるなかで私は考える。



先輩と…なんか接しやすいなってこと。

そう思う間にも先輩は、またうつらうつらとし始めている。

この人はほんとに自然体なんだなぁ…


カッコつけてる時もあるし、それがまたバレバレだけど、そのあとには必ずニカッと笑うんだ先輩は。

それは照れ隠しで

屈託のない笑顔で。


あの笑顔を思い出すと愛おしさが込み上げてくる。

今日はじめて先輩から貰ったあのメールと同じで、単純明快だ。



この人は分かりやすい。




ぼんやりと考えること少し、余所見をしていた私は目下の物体に足を取られ、見事にすっ転んだのだった。


ここで私だけが転ければ良かったものの、きっちり繋がった手が先輩をも巻き添えにした。



私の発した小さな叫びよりも大きな音で、懐中電灯が地面に叩きつけられ、光の線が消えた。



ふと訪れる闇、そして離れた手と手。



静寂に、視覚以外の五感さえも失ってしまった。


「痛ぇ………」


「先輩?!どこ?!」


「優子、お前ふざけんじゃねぇぞ………」



「ふざけてないですから!!
ねぇどこ?!…なんっにも見えませんけど!!!」


「うるせぇ叫ぶな…ちょっと待てよ、今探すから。無駄に歩き回るなよ?」


そうは言われてもまさにパニック。
先輩の忠告も右から左で、こういう時に私のような臆病な人間は、手当たり次第に動き回ってしまう。



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あきゅろす。
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