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うわ…真っ暗…

自転車のライトが一斉に消えたら


もう右も左も分からない。

空と地の境が見えない。



「先輩!!」



私は思わず叫んでいた。
周りには皆いるはずなのに、まるで自分1人がブラックホールに落ちたみたいで怖い。



「こっちだって」


バカ、って付け足されて右腕を引かれた。


バカは余計だけど、迷いのないその腕がすごく頼もしく思える。この腕があるのとないのとでは、大きく違う。


いつも華麗にシュートを決める、あの腕を思い出す。



「絶対俺から離れんなよ。迷子んなるぞ」


「……はい」



握られた箇所が熱を帯びて、やがて全身にまわっていった時

一筋の明かりが暗闇を照らした。


そしてまた一つ。二つ。



先輩が私の前を
ズンズン歩いてくのがぼんやりと見えてきた。


でも霞んで…よく分からない。

先輩は黒い服だから
ちゃんと付いてかないと、ほんとに迷子になりそうだ…


もしこんなとこで迷子になったら…たぶん命はなさそう。


私は最悪の光景を頭に浮かべてから、先輩の斜め前にまわって体を寄せた。


「おい……歩きにくいだろうが」


低い声が困ったように降りかかる。


「だって…くっついてないと不安なんですよ……」



自分でもよくここまで大胆な行動にでれたなと思うけど


暗かったら先輩の顔も見れないし、割と大丈夫。


要は先輩の顔が問題なんだ…。


あの顔に見つめられると私の体はカチコチになるから。




くっついてはいるけど
歩幅が合わないから、どうしても先輩が先に行ってしまう。


私は必死に歩幅を合わせて早歩きした。


前方の光の筋が、右へ行ったり左へ行ったりと忙しなく動き回る。


「ここだココ!!」


「リョーちんどこにいんだよ?!」



私から言わせれば桜木君たちはどこにいるのかと聞きたい。


私にわかるのは先輩だけだから…。


先輩は私の隣にいる。



「コッチだ!!」



一つの光の筋が大きく円を描くようにして丸を作ってる。


あそこにいるのが恐らく宮城先輩なんだろう。



私は、ただ繋がった手と手の感触に任せて歩を進めた。


やっぱり線香花火が良かった。宮城先輩がここだと言って立ち止まった場所は、今じゃ使われていない立ち入り禁止のトンネルらしい。
まさかここに入るのが肝試しなんだと言い出されたら、誰に止められても帰るつもりだった。


けど


一人で帰れるわけがない。



だって、先輩に帰ると半泣きになりながら伝えたのに

もう今から下る体力はないと言われてしまったから。


覚悟を決めるしか選択肢はないらしい。



心の準備をする間にも、何やら話は進められていく。


途中から意識が散漫になっていた私には、なんの会話だか飲み込めなかった。


そんな私をよそに、先輩が彩子さんの手から何か紙切れを受け取った。

そのときも私は先輩の服をつかんだまま離さない。



「2番てか」


顔を上げると眉を潜めて下唇を突き出す先輩の顔。


2番?
もしかし…なくても入る順番……ですね。間違いなく。


だってもうすでに1番クジを引いたらしい流川君のペアが、トンネルへと消えていく。


…ほんとに入ってった……。



「先輩ぃ………」


「おわっ 何泣いてんのお前…!!」


ぼやけた視界に、目を丸くして吃驚する先輩の顔がアップになった。

あれ…泣いてる…私。

先輩が、泣くなよ、とか
なんで泣くんだよとか言ってあたふたするけど…私にも何だか分からない。

しまいには肝試しをやろうと言い出した宮城先輩を責め始める先輩。

それでも無理ならと、Tシャツの裾で乱暴に涙をふいてくる。

怒りの矛先は常に宮城先輩にあるようで、私が泣くことには怒らないでいてくれた。


私も何泣いてんだか…。ごめんねと謝ってくる宮城先輩にも悪い気がして、緩んだ涙腺を引き締める。

それから明るい話題に移って、談笑していた矢先にまぬけな着信音が響き渡った。


手を握る先輩がビクっと揺れて、早く出ろと怒鳴りつける。



「もしもし?!
流川? おお……ん?なに?プツプツ言ってて聞こえねぇ…
あ、着いたのか?んじゃそっちで待ってろ」


電波が悪いのか聞き取りにくそうだったが、どうやら順番が回ってきそうな会話だった。


「行くか」


行くんですか……はぁ…


束の間の談笑だった。



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