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「優子ちゃんだったっけ?」


へ、私?
突然に呼びかけられて、私は声の主の方を見た。

彩子さん…。


「はい!」


彩子さんが、私に近づいて来て耳打ちをした。


『三井先輩すごく嬉しそうね』


「へ?!」


言われてみて、先輩たちの方を見てみたら、確かにいつもよりはしゃいでる気がしないでもない。

『貴女と話すのは今日が初めてだけど…こんな可愛い彼女乗っけて、すごい自慢なんじゃないかしら』


そんな有り得ないようなことを言ってから、ニコッて笑われた。笑顔が眩しい。

「それは絶対ないです!!」



「三井サンに襲われないように気を付けなよ?」


いつの間にか宮城先輩までこっちに来ている。


「襲われる…?」


私が気の抜けたように言うと、宮城先輩の表情が引き締まった。


「もし襲われたらすぐ助けを呼ぶんだよ?ソッコーでぶちのめしてあげるから。」


私が返答に困っていると、誰かに腕を思いっきり引かれた。

吃驚した私は、隣を見上げる。


「何やってんだ。早く行くぞ!」


三井先輩…。痛い…っ
自分は楽しそうに話しといて…。

私はちょっと反抗的な視線を送ってから、手を引かれるままに付いて行った。



「よっぽど優子ちゃんが可愛いのね、先輩」

「だね、彩ちゃん」



団欒したあと私たちは、それぞれのペアで目的地へと走り出した。


一番前を桜木君と晴子ちゃんのペアが行き、二番目を宮城先輩と彩子さんのペアが走る。


そのすぐ後を私と三井先輩が付いて行く。


後ろが少し気になって振り向くと、流川君が三井先輩の妹の絵梨ちゃんを乗せて付いてきている。


こんな夜更けにこの団体は、怪しいよね…。

皆大きいし。



私は向かい風に髪をなびかせながら、頭上の星を見つめていた。



走る自転車を追いかけるようにして月もついてくる。


…まだ全然怖くないや。

みんないるし、先輩がこんな近くにいる。


私は先輩の短く揺れる髪を、見ていた。

案外…無邪気なんだなって



前を走る2組といつの間にか競い始める先輩を見て思う。


負けず嫌いだなぁ

カッコいいんだか
可愛いんだか



私から見ればすごく大人っぽい先輩も


笑えば無邪気で子供みたいで



それを言ったら怒るし


そこがまた子供っぽいんだけど



好きだな…



なんどでも思い知らされる好きって気持ち。



先輩はニブちんだから
ちゃんと言わなきゃ伝わんなさそう…



「優子ー。寝てんのかー?」


だってこの温もりと、自転車の揺れ具合が心地よくて……



「起きてますーっ」


膨れながら言う。



「ずっと黙ってっから寝てんのかと思った」


その言葉が、背中を伝って響いてくる。


「だんだんヤベーとこ入ってきたな」



ん?そう言えば…
さっきからもうずっと、街の光を見ていない気がする。


だから先輩の声がこんなに大きく聞こえてたんだ。


視覚が途絶えると、他の五感がさえ渡る。


「…どこ走ってるんだろ…」



森?



「おい宮城!!
どこまで行くんだよ」


私が呟いたのが聞こえたのか、先輩が代わりに聞いてくれた。



「たぶんこのへんなんスけど!!」



前の方から
かすかに響いてくる声。


こんなに声が反響するなんて…ほんとに山か森か林か…そんなとこだろうか。

まず、非日常の世界であることは間違いなさそうで。



「あーもう…さっきから登りばっかで下りがねぇ…っ」


先輩の背中がじっとりとしてる。

息も荒くなってきてて、腰を浮かして必死にこいでる。



そんな姿を感じたら

後ろで座ってるだけなのが
なんだか申し訳ない。



「先輩……大丈夫?」


「大丈夫だ! って…っ」


ほんとかなぁ…。

私もなにかできること……


考えてから、先輩のTシャツに手を伸ばして
パタパタと上下に揺り動かした。

これでちょっとは涼しくなるかな。


「おー気ぃきくじゃん、サンキュー」


涼しい涼しいって言って誉められた。



いつまで続くのかと思った険しい道も、しばらく行くと平らな草村のような所へでてきた。
そこへ来てようやく目的地に着いたらしい声が上がって、私たちは自転車を降りた。



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