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……ねぇ、でも私
たぶん楓が思ってるより絶対重いんだけど…

「ねぇ…」と、楓のトレーナーを引っ張る。


「…おお、分かってる。今かがむトコ」


ち、ちが…っ
そうじゃなくてね…?


伝える間もなく、楓は姿勢を低くした。


「ほれ。さっき飛びついたみてぇにしてみろ」


…え……恥ずかしい。
自分から積極的に押すのは平気なのに、
楓から積極的にこられると……すごく照れる…。


私はさっきと違って、遠慮がちに両腕を楓の首に回した。



……わ、なんか心臓が!!


嬉しい恥ずかしい気絶しそう……っ


悶える私をよそに、楓は私の右腕をグイッと引いた。


「どあほう…もっとちゃんと掴まれ。落ちたらどーする」


「あ!! だって…っ」

だってね?!
あんまり密着したら!!


いろんなトコがジャストフィットしてしまうじゃないですかアナタ……。



悶々としてる間に、
楓の片腕が私の膝裏に通される。



「掴まってろよ」



そう言われて…
もういい、完全に密着してしまえ。

私だってこうしたいと思ってたんだから…


私は羞恥心というものを一気に取っ払って、楓にギュッとしがみついた。


そのままフワッと私の両足が地から離れて、地が遠くなる。


ぎゃあ!!

高い!!


怖い!!


こっちはこっちで怖い!!


これを全て口に出して言ってたら、ぐわんぐわん鳴り響いて五月蝿いことこの上ないと思う。


「高い〜……っ」



私が遠慮して言える叫びはこれぐらいだった…。

まさか楓が…その…
いわゆるお姫さま抱っこをしてくれるなんて……

肝試し、捨てたもんじゃない。


この状況に初めて感謝したい。


そして私は、間近で楓の顔をジッと見つめて改めて思うのだった。


イイ男だなぁ……ほんと…。


私が本当に彼女でいいのだろうかとさえ思ってしまう。

意地悪だけどね…。

でも優しい。


楓は冷たいわけじゃない。


冷静なだけ。


そこに私は惚れたんだもん………。


私は楓への想いを再認識していた。


でね、本当に好きだからこそ…
あるんだよ乙女心ってもんが。




「…楓、重くない…?」


「全然。ヨユー」



あれ…即答?
私の不安要素が一瞬のうちにすっ飛ばされちゃったんだけど…。





楓の体温と、落ち着く声と
どれぐらいの時間を過ごしたかな。


会話が途切れたら
寂しくなってまた話しかける私に
短い言葉でもちゃんと応えてくれて


とうとう最後まで私を抱っこしたまま歩いてくれた。



「……出口だ」




着いちゃった…。
長く長く
人生の中に用意された一つ一つの幸せを、丸ごと一気に味わったような…


そんな長い時間が終わりに近づいた。


私は楓の体の温もりを、惜しむようにして抱擁する。


「……ねぇ楓、これからもずっと離れないでそばにいてくれる…?」



顔はみない。

肩に顔伏せてるから……楓の表情は分からない。


その方がいい。



「俺はどこにも行かねー。」



私はそれを聞いてフッと笑った。


…楓と一瞬にいたら、私はいつだって失神寸前の幸せのなかにいられる。




私は顔を上げて、トンネルから抜けたあとの新鮮な空気を胸いっぱい吸い込んだ。


月が綺麗……。


楓の視線にこんなにも近いところで、私も同じ月を見つめてる。



私はしばらくその余韻に浸っていた。







END.

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あきゅろす。
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