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▼優子side


楓ってほんと意地悪い……

けど、置いてかれるのはイヤッ!!


悔しいことに、
さっきまで握られていたあの手がなきゃ

不安で不安で…


私は思うより早く、流川の後を追って駆け出していた。





―3:05―


ペアは最初に組んだ通りのペアで、
順番はクジで決められた。

さすが、彩ちゃん。用意がいいわ。


「……ねぇ楓、このクジ運どう思う?」

「順番は関係ねぇだろう」


ふ…楓くん。
1番最初に行くってことの恐ろしさが分からないなんて…幸せな人ね、アナタ。


やだやだやだやだ…なんか絶対ヤバい気がするの。私。



楓の手をギュッと強く握りしめてから、改めて前方に立ちはだかる暗闇を見据える。


……立ち入り禁止になった使われてないトンネルに入るって、本気なの?


今回だけは本当に霊体験しちゃうんじゃないの…私…。


「楓!」


「なんだ…」



どうしよう…言っちゃおうかな…
おんぶして行ってって。
うん。即却下されるの分かってるからこそ言わないんだけどね。


「絶っ対!
途中で置いてったり、悪戯するのだけはやめてね………?!
これだけは神に誓って!!」


「神…?」


「誓うの!!誓うって言って」



「………誓う」


「よし」



私は念のために小指を差し出して、楓の小指と無理やりに絡めた。


「こっから先…さっきみたいな悪ふざけはシャレになんないからね………?」



楓は適当に返事をしてから、さっさとトンネルの中へと歩いていく。


本当に分かってんのかな………行ってるそばから置いてかないでよ〜!!


すぐに追いついたけど…………。

一度振り返ったら
入り口付近では、残された6人が談話しているのが見えた。


中と外……全然温度差も空気の質も違ってる。

重苦しい…。

交わらない楓の足音と、私の足音が不協和音になって頭上の壁に響いてくる。


時折ピチャン、と
滴の垂れる音も混じってくる。


物的な音だけの空間って……すごく居心地が悪い。


人の笑い声とか話し声とか……そんなのがないとヤッパリ


……………。


「イヤッ!!」


楓がビクッて揺れたのが、手と肩を伝って分かった。


「…オメェ」


隣で唸る楓を見上げたら、キツく睨まれてしまった…


「ごめん……変なこと考えちゃって…」

……よく考えたら、この状況で人の笑い声が聞こえる方がよっぽど恐ろしい。私はもう一度身震いした。




コツコツコツコツ



コツコツコツコツ……




静か……





私は途中から目を閉じて
あとはずっと楓と繋がった左手だけを頼りに歩いた。


たぶん楓はそれに気付いてはいないと思うけど……



楓とペアじゃなかったら、こんな風に身を預けることなんて
きっとできないの。


楓が彼氏で本当に良かった………。




コツコツコツコツ


コツコツコツコツ……



ここまで来る間私は、一言も話さなかった。


楓もずっと黙ったままで、私の手を引いて少し前を歩いてく。



「まだ出口見えない……?」



「ああ」




楓の落ち着いた声が返ってくる。


そして私はまた安心するんだ。



出口がまだ見えないとしても、楓が冷静にそう言うのなら

怖いことなんてきっとない。


ユーレイが出ても

人の笑い声が聞こえてきたとしても



楓が“大丈夫”って言うんなら



その一言で私の心は静かになれる。





絶対大丈夫………。
楓のそばにさえいれば。




「痛い……。手ぇ」


「………怖いんだもん」



「…………」



楓が立ち止まった。



「なに…?」




「怖いってどのぐらい怖いんだ」



「え……。すごく。とても」



「この先まだありそーだけど、行けるか?」



…私は考えた。楓がなんか良いこと言ってくれる気がして…。

まだちゃんと歩いていけるけど、


「もー無理…ギブアップ…」




「……そうか。
前にくるか、後ろにいくか、どっちがいい」


…前?

うしろ?


「どーゆう意味?」


「おんぶか抱っこ、どっちがいい」



へ………?
してくれるの?!
楓が?!


やだやだちょっと!!

ぜひお願いします!!!


私はこれ以上ないぐらいにとびきりの笑顔を見せて

爪先立ってから楓に飛びついた。

くそう…首には届かない…。



「抱っこがいい!!」


私の恥ずかしい言葉が、大音響で木霊する。


<<抱っこ抱っこ抱っこ……


がいいがいいがいい……>>



「……そのすぐ叫ぶのなんとかしろ……
うるせぇ…」


「だってっ
楓、大好き!!」



もうなんか怖いやら嬉しいやら訳わかんないけど…


とにかく幸せ。



楓は呆れたように「ハイハイ」と言ったけど、少しだけ…ほんっの少しだけ優しく笑ったのを見逃さなかった。



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あきゅろす。
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