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「もしもし」
「俺だけど」
「あ、県予選初戦どうだった?」
「勝った」
「すごいじゃん!流石だね」
「…おう」
「バスケ、楽しい?」
「ああ」
「学校は?」
「まぁまぁだな。お前は?」
「私は相変わらずだよ。進歩なし」

あははと夏樹は笑う。肝心なところで進歩がないのは俺も同じなのに。寂しい、と思ってかけた電話も時間だけが虚しく過ぎていく。

俺がごめん、て謝ったら
“らしくないな”って言ってまた笑った。

夏樹はあの時別れる間際にも笑ったよな。
「お前は俺みたいな良い男振って後悔してねぇのかよ」って俺の言葉に「ちょっとしてる」だと。“ちょっと”かよ…。


「もう戻ってきちゃ駄目だからね」
分かってる。

「もう私は何のフォローもしないから」
好きな女にフォローされてちゃ終わりだ。

「寿、あんた良い男だよ本当に」
今頃気付いたのかよ。遅ぇよ。

「あんた以上に好きになる男なんてもう現れないと思う」
ホント、遅ぇよ。…ばかやろう。

そう言って受話器の向こうで鼻をすする音を聞いて俺は愛されてるなぁと心の底からそう思った。


「今までありがとな
もう、連絡しないから」
「うん」
「元気でな」
「寿も………元気でね。
もう道、間違えちゃ駄目だよ?」
「おう」
「バスケ、ずっと好きでいてね」
「好きでいるよ、ずっと」


鼻をツンと刺激する熱いものに耐えられる自信がなくなって、俺は「もう切る」と言ってから受話器を置いた。

最後の最後まで素直にはなれずに、終わった。


離れたくないって言えるぐらいの男なら
今まで真っ直ぐ歩いてこれたはずなんだよなぁ…


これでいいんだ。もう迷わない。
髪も切ったし。気合い入ったし。


みてろよ、もっと良い男になって本気で後悔させてやるから。

笑顔の科白



END.

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