[2]
「………リョータ黒すきなの?」
「別に?」
「そか…」
「………飯、食わねぇの?」
「食べる」
なんだか気まずい。
「リョータ」
「ん?」
何か話さなきゃ。自然に何か。居心地悪いって思われたくない。そばにいたい。
「どしたよ」
ん、今話すよ。話すから待って。
「………」
ダメだ。テンションがた落ち。
「なんかあったか?」
「ん、なんでもないんだ」
何でもないけど、寂しいだけ。
お弁当にも手を付けずにボーッとする私にリョータは「とりあえずゆっくりしてけば」と言って笑顔で応えてくれた。何気ない優しさが心に染みた。私、寂しいんだわ。それは親のせいもある。あとは、よく分からない。
リョータと二人でいるこの瞬間にも、私は満たされないでいる。リョータと向い合わせでも、リョータの視線はどこか違うところを見てるから。
欲求不満なのは体だ。それは決してイヤらしいものじゃなくて。単に触れたい、触れられたい欲求。
「………」
沈黙が苦しい。リョータも何で黙ってんだか。いちご牛乳をストローでちゅうちゅう吸ってるだけで、私と目も合わさない。目線は菓子パンに固定されてる。
私はベッドに腰かける。
その瞬間、ピクリとリョータが微かに反応したのが分かった。やっぱり意識してるのかな。そーゆうこと。
リョータも、男だし。
うちら、友達だけど。
「夏樹」
私の名前を呼ぶ声が、少しだけいつもより暗い気がした。
「やっぱもう帰れ」
硬直する一言。ごめんね。私は黙ることが精一杯になって、リョータをじっと見た。リョータの目は、どう見たって楽しそうじゃなくて、怒ってるようにさえ見える。やっぱりいくら友達だからって、こんなに遅くに上がり込んで、迷惑だったよね。
「ごめん」
けど、帰りたくない。だからごめん。
「帰れない」
リョータの驚いた目。半開きの口。
「帰れないって…なに」
「今日は帰れない」
「送ってく」
「やだよ」
「何言ってんだよ」
「帰ったって私一人だよ」
どのちみち一人な気がしてた。リョータはそれを知らない。私の孤独を知らないから。
「お前泊まる気なの?」
「友達なんだしいいでしょ?」
けどリョータは、友達だからダメだって言って突き放してきた。でもそれっておかしくないかな。
友達だから、泊まったとしても男女の関係になることなんてないはずでしょ。そうゆうニュアンスのことを話したら、リョータは明らかに機嫌が悪くなった。
怒らせた?
私が悪いのかな。一緒にいたいって思うのが間違いなのかな。
「何…なんで泣くのお前…」
「ごめん」
「泣くなよな」
「ごめんって」
「女ってズリィよ…」
アホみたいに止まらなくなった涙腺は視界を曇らせてリョータの心までも曇らせてしまった。
今日1日泣くだけ泣けば治まるかな。鼻水も出しきったらこの孤独は癒えるかな。
「リョータ、今日は一人であの寂しい家にいたくない…」
「…………」
そうやってズルい女の私は、泣いてリョータに懇願した。頼った。
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