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「あー!!!」


え、何??!


「三井サン、手っ!!」

隣で叫ぶ小柄な彼は、私の背後を指差した。ふと気づけば、その三井サンと私は完全に密着していた。

「…………」


声にもならない。
私の代わりに三井サンが声を上げた。


「は?!
俺はナンもしてねぇって!」

恐る恐る彼の方を見上げてみると、ほんのり頬を染めた顔がしかめっ面で隣の彼を睨んでいる。


「いや、今触ってただろ!この子の腰!!」


「な?!
しょーがねぇだろコノ女が倒れかかって来たんだから」


コノ女…?


私は一気にどん底まで落ち込む。こんな醜態さらして、しかも図々しく抱きついてしまった…。

恥ずかしくて恥ずかしくて涙腺が緩む…。

絶対嫌われた……。

なんだか無性に悲しくなった。遅刻して…私なにやってんだろ。


『あ…どーしよ』


いくらこらえても、熱くなった目頭からはスウーと涙が伝っていく。まさに最悪の最悪。見ず知らずの男に抱きついて泣き顔まで晒してしまうなんて。


頭が真っ白。
せめて気づかれないようにと私は思いっきり俯いた。
けれど、目の前にあった三井サンの腕に、ポタポタと涙がこぼれ落ちてしまった。


私は眼鏡をずらすと、片手で顔を隠すようにして涙を擦る。


すると突然フワッと優しい香りに包まれた。

三井サンが私の体を引き寄せたのだ。



「へ?」

なんで?!!
変な声出しちゃったよ。


呆然。


でもそのおかげで私の涙は彼の制服に染み込んでいき誰にもバレることはなかった。三井サン以外、誰にも。


「うわっ!!変態!!痴漢!!」

隣の彼が面白そうに騒ぐ。



「おー変態でけっこう。痴漢でけっこう。」


と言いながらも軽く足蹴りを食らわしたのか、ドスッと鈍い音と一緒に私にも振動が伝わる。


あったかい…
熱いぐらい。

この人すごい優しい人なんだな………
見た目だけで誤解してたみたい。



私は彼の胸を借りて、しばらく呼吸を整えた。


トクントクンと彼の鼓動が心地よく、さっきまでの窮屈さが逆に安心感を与えてくれる。

「三井サンも優しいんスねぇ…女の子には」

ちょっと皮肉っぽく言っている。


「まぁ…ポリシーだから?」


眉を潜めて頭の上にハテナを付けながら言ってのける。


ちょっと流石にこの状態が長く続くのは恥ずかしい…。

私が黙ったままでいると、その様子を察してくれたのか
彼がそっと私から離れて、さり気なく私を囲うようにして手すりに掴まらせてくれた。


「…ありがとう」


「ん。」



相変わらずの仏頂面だったけど、この時少しだけ優しい目になった気がした。


私はさっきまで収まっていた彼の胸元を見て、もう少し抱きついていたかったな…とか霰もないことを考えてしまい
慌てて首をふる。


『…あ、次の駅で降りなきゃ』


熱っぽい思考を遮るように、次の停車駅のアナウンスが流れる。


「あの…」


私は意を決して自分から話しかけてみた。

「どこの学校ですか…?」


真っ直ぐ目が合わせられないけど、喉元あたりに視線をやる。


「俺らは湘北だ」


やっぱり。制服からしてもしかしたらと思っていたけど、着崩しているから良くわからなかった。

私は女子校だから、もしかしたらもう会えなくなるかも知れないな…。

そう思うとすごく寂しい。



「オマエなんての?」

「え?」


「名前」


「あ…岡島です」


「下の名前は?」

「優子…です」


「ふーん。今度からは混む時間避けろよ?」


「はい…あの…さっきはありがとう」


「いいって別に」


彼はニッと笑って下車する私を見送った。

「じゃーな。メガネちゃん」


……。
メガネちゃん…か。
私、名前言ったはずなんだけどな…
…ま、いっか


彼の隣で小柄な彼もふざけて笑ってる。

「今度からは痴漢に気をつけてねっ」


その後、小突き合う2人をボーっと見ながら私は微笑んだ。
それから軽く会釈して動き出した電車を見送った。



もう会えないかもね…

結局2人のことはほとんど分からなかった。当たり前なんだけど。

湘北の生徒ってことと、あの人は…三井サンって名前ってこと。もう一人のあの人の名前は分からなかったな。

怖そうな人たちだったけど意外にすごく優しい人たちだったってことも知れた。

おんなじ学校に通いたかったな…


私はそんな風に思いながら、いつもと少し違う風景のなか、改札口へと向かって歩き出した。


「またいつか会えたらいいな」






END.

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