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『やだなぁ…
この時間帯めちゃくちゃ混むのに…。』
プラットホームに立ち、“真面目っ子”の象徴でもある眼鏡をかけ直す。
私はいつも朝のラッシュを避けるために早めの電車に乗るけれど、今日はなんだか体がだるくて家を出るのが遅くなってしまった。
で、完全に遅刻。
入学して以来、遅刻なんてしたことのなかった私にとってこれほどブルーになる日はない。
そして何より私は混み合う電車が大嫌い…。
理由は色々あるけれど、まず第一に苦手な人種と乗り合わせることになるから。
その人種ってのはいわゆる不良の男子だ。
この時間帯になると遅刻常習犯のそういった人たちと乗り合わせる羽目になる。
私は不良とか凶暴そうな男子が何より嫌いだから、これは深刻な事態だった。
自分の今朝の体調不良を呪わずにはいられない。
「…はぁ…」
私は盛大なため息を吐くと、プラットホームに停車した電車に乗り込んだ。
『うわぁ…すごい混んでる…』
分かってはいたけど…この殺人的な混み具合には体調不良も悪化した気がする。
当然座る席などないから、私は入り口付近の手すりに捕まって身を縮こまらせた。
ざっと見たところ周りにはサラリーマンやOLばかり。登校する時刻を大幅にオーバーしているためか学生は少ない。
発車のアナウンスが鳴ると、私は学生カバンから愛読書を取りだそうと俯いた。
「ああ〜閉まる閉まる!!!」
その突然の声に体がビクッと震える。
『な、なに…?』
落とした視線を上げてみると、物凄い勢いで走ってくる2人の男子が見えた。
『わわわ!!
こっち来る…っ』
額にびっしょりと汗を滴らせた少し小柄な人と、背の高い人が私のいる入り口から勢いよく乗り込んできた。
間一髪で扉が閉まる。
「はぁ…間に合ったっ」
私のすぐ隣で息も絶え絶えにその小柄な方の男子が扉にもたれかかっている…
近くで顔を見ると、まさに私が苦手とする不良タイプの感じがした。
日に焼けた肌にこの髪型。それに目つきがどことなく怖い…喧嘩っ早そう…。
よりにもよってこんな至近距離で……本当についてない…。
チラリと横目で見てみる。小柄だと思ったけど隣に立たれるとやはり自分よりは高い位置に顔がある。
『怖いな…』
あんまり目を合わせないようにしよう…
私は意識的にうつむくと、さっき引っ込めてしまった手を再びカバンへと差し入れた。
「どーせ遅刻なんだしよ…ゆっくり行きゃ良かったのに」
今度は別の声がした。
『もうっ…気が散る…』
私は俯いたまま取り出した本を読むのに集中しようとするけれど、2人が気になって仕方がない。
声のする方向で背の高い方の男子が私の前の吊革に捕まっているのがわかる。
『目の前に立たないで〜っっ;;』
私は2人が飛び乗って来た時に驚いて、窓側に向けていた体を吊革のある方へ向けてしまっていたことに気づいた。
この混みようじゃ体勢ひとつ変えるのにも周りの気を使う。
『どうしよう……読書どころじゃない』
「三井サンあんたね…そんなこと言ってたらマジで留年しますヨ」
「お前もな!!」
2人が私を間に挟むかたちで会話している。内容からして2人は同級生ではないみたい…?
こっちの背高い方が先輩なのか…。確か三井サンって…
『はっ!
何見てんの私っ…睨んでると思われたらどーすんのよバカ』
その時目の前の“三井サン”と目が合ってしまった。
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