[2]
「………おい桜木」
「………ああ…見られてるな。
明らかに変な目で!!」
俺と花道が一つの傘に収まるには、否が応でも密着するしかなく…
桜木が傘を持って俺が桜木にくっつくような形で歩いていたわけだが…さっきから通りすがる女共の視線の痛いことったらない。
ちっ
俺は見せモンじゃねぇぞコラ!
…と怒鳴りたいとこだが、それをすると面倒なことになりそうだからココは我慢するしかない。
「やだ─っ
ちょっとあの2人!!
男同士で相合い傘してる!!」
前から歩いてくるOL風の女2人が何やらチラチラと俺らを見ては笑っていやがる。
く、クソ!!
俺が憤慨していると桜木が俺をヒジでつついた。
「ミッチー…恥ずかしい…」
「恥ずかしいのは俺もだよバカやろう…!!」
ツツキ合ってる間にOLの女2人とすれ違った。
「うわデカ!!」
あ…?
俺は思わず睨み付けた。元ヤンの性ってやつか…。
「や、ちょっとカッコ良くない?!
ねぇねぇアンタどっち好みだった?」
………くだらねぇ…っ!
…くだらないとは思いつつも…
耳を傾ける俺。
と、桜木。
「私は背の低い方の子かなー?」
おおっしゃ〜!!
勝ったー!!
背低い方って俺だよな?
心んなかでは大きくガッツポーズ。
「ぬ?! なんでミッチーなんだよっ」
「ふはは!! まぁまぁ気ぃ落とすなや」
俺は気休め程度に肩を叩いてやる。
俺らはその後も何人かの通行人にコソコソ言われては笑われたりした。
何度かぶち切れそうになったが俺はよく耐えた。自分で自分を褒めてやりたい。
「ったくお前が目立ちすぎんだよ…赤い頭と無駄にデカせいで」
「ミッチーが睨みきかせてるせいだろ?!」
ったく…。
「あ、ミッチー。ここでお別れだ。俺こっちだし」
桜木がふいに止まったせいで、歩いていた俺は濡れちまった。
「なに?! なんだよソレ…じゃあ俺にこっからは濡れて帰れっつうのかよ」
「だってしょうがないだろ…俺んちコッチなんだから」
……はぁ。
俺は結局濡れて帰る運命にあるわけか。
ツイテねぇな…。
「わぁったよ…っ
じぁな!!」
「スマンッ」
俺は傘から抜けるとダッシュで走り出した。もうヤケクソだ。濡れたろーじゃねぇの…。
「よ!! 水も滴るイイ男!!」
桜木がバカでかい声で叫んだせいでまたまた注目されるハメに…。
「じ、ジロジロ見てんじゃねぇ!!」
クソクソ…
…水も滴るって
滴るどころじゃねぇよこれは…
滝のように頭上から降り続ける雨に打たれながら、こんなに濡れるんなら最初から一人でサッサと帰れば良かったと後悔した。
野郎同士で相合い傘なんてこっ恥ずかしいことしなくても良かったんだ。
俺はもうあきらめて走るのを止めた。
ここまで降るといっそのこと濡れた方が気持ちいい。
雨の日ってのは静かだな。
ザーザー言ってんだけど静かだ。
……ん?
なんだあのダンボール。
前方に聳える電柱の元に、小ぶりのダンボール箱が置かれている。
どう見ても不自然な光景で、そこを横切る連中もチラッと見てはいるものの足早に素通りして行く。
俺もそこを横切ろうとした時─…
聞こえてしまった…
雨音に混じって、か細い鳴き声が。
「ミャー…」
捨て猫…か。
俺は素通りすることもできずにその場で立ち止まった。
「ミャー…」
やっぱりこのダンボールの中から弱々しくも猫の鳴き声が聞こえてくる。
「参ったな…」
とりあえずその場にしゃがんでダンボール箱を開けてみた。
「なんだ子猫じゃねぇか…」
「ミャー…」
白に茶色と焦げ茶の混じったブチだ。
箱のなかで小刻みに震えていた。
中に敷かれた新聞紙が雨でふやけてぐちゃぐちゃだ。不衛生極まりない。
このまま放置したら間違いなく死ぬだろうな。
ヒドい飼い主もいたもんだ…。
俺は怒りを覚えながら子猫をそっと抱き上げた。
「ミャー…」
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