[5]
白いカーテンが揺れている。
開かれた窓のそばには花瓶に挿された黄色く明るい花が揺れている。
名前は知らない。
「お母さん?」
二三歩進んだところで、遮られた白いカーテンの向こうから何ヶ月も聞けなかった声がした。
この何ヶ月がやたら長く感じて、今いっきに距離が縮まった気がする。
「ドアホウ」
聞き慣れた言葉と同時に、揺れたカーテンから現れたのはお母さんではなくて流川だった。
「……………」
「なに固まってんだ。お前の“お母さん”じゃなくて悪かったな」
「流川………?
なんでここにいるの…?」
「いちゃ悪ぃか」
「……悪くない…
けど………」
夏樹の目には大粒の涙が溜まっている。
入院してから、この顔ばかりを思い浮かべてきた。暗く静かな病室で一人眠る夜も、ずっと。
誰よりも一番会いたかった流川が今目の前にいる。
「……夢?」
「じゃねぇ」
流川が夏樹の頬を軽くつねった。
ああホントだ。夢じゃない。
「鼻水だして泣くな」
うるさい!!と、いつもみたいに言い返そうとする前に抱きしめられてしまった。
手も出なければ声も出ない。ただ鼻水と涙だけが流れるばかりだ。
「…流川?
鼻水つくよ……いいの?」
「イイ」
「頭おかしくなったの…?」
「……たぶん(眠すぎて)」
「……寂しかったよ」
少し間があいてから、私を抱きしめる腕が強まった。
今なら言えそうな気がする。
一世一代の告白。
「好きだ」
…え?
私が言おうとした言葉を流川に先を越されてしまった。
「お前が好きだ。
水無瀬が好きだ。お前がいない毎日は退屈でしょうがねぇ………」
うそ。本当に?どうしてくれんの。もう嗚咽で声も出せないよ。鼻水も止まんないよ。
私だってちゃんと言いたいのに。
好きだよって。
代わりにたくさん頷いて、流川の背中に腕を回して必死に応えた。
「………もう限界だ」
流川の髪が私の胸にふわふわ降り注いで、天井が揺らいだと思ったらフラァと私を抱きしめたままベッドに倒れ込んだ。
「ちょ……!!
流川ここ病院……っ」
真っ赤になった私が硬直していると、今度はスゥスゥと寝息が聞こえてきた。
……寝てる…
「ほんと自己中な男だよね流川って…」
勝手に現れて勝手に好きだと言って勝手に寝た……。
寝顔がまた可愛いから余計ムカつくわ。
私は鼻をすすってから、自分の腕の中で安らかな寝息をたてて眠る流川の髪を、そっと撫で続けた。
「流川…好きだよ」
私は流川が寝ている間、流川の手に握られていた千羽鶴を見て泣いていた。
その鶴?らしいモノは、どれもがグシャグシャで元の形を留めてなくって…
それを見ただけで全てがわかってしまったから。
流川が、寝ないで一生懸命作ってくれたんだ。
ひとつひとつ…。
その姿を想像するだけで、涙が溢れる。
「ありがとう…」
私は流川にそう言ったあと、改めて告白をした。
流川、大好き
END.
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