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体育館に顔を出したところでまず彩子は流川を呼び止めた。


「あんたクマすごいじゃない…もしかして寝ないで折ってたの?」



驚くべきとこはそこだ。あの唯我独尊の流川が誰かのために寝る間も惜しんで何かを作るなどと、考えられない話だ。


流川は彩子の心底驚いた表情に、少し眉をしかめたが、ゆっくりとした口調で言い切った。


「俺がアイツにしてやれることはこれぐらいしかねぇスから」


早くまたあの笑顔が見たい。
アイツの声が聞きたい。

自分が怪我の治りを早くしてやることはできないとしても、それを祈ることぐらいならしてやれる。


さっさと治して退院してもらわねぇと俺が困る。


折り鶴をなぜ千羽も作る必要があるのか疑問に思ったりもしたが、じっと待つよりはマシだろうと思った。



「流川、あんた本気で夏樹が好きなの?」


もう答えは出ているけれど、彩子は聞かずにはいられなかった。



「さぁ…」


さぁ…て。
いやね、流川。
冷血男のアンタが一人の女にそこまで出来るんだから
それはもう立派な愛ってもんよ。


「アンタにも愛だの恋だのって感情があったか。青春だぁね♪」


流川は否定も肯定もせず黙って眉をしかめていた。

そして予定していたお見舞いの日の朝。


流川はとうとう千羽鶴を完成させてしまったのだ。


たった1人で。


かなりギリギリだったが最後の2日は徹夜をしてなんとか間に合った。


「………死ねる」

もう眠いだとか疲れたとかの域じゃねぇ…
指が動かん。目が開かん。


イラつく。フラつく。腹が減った。


……水無瀬。


今日アイツに会ったらまず文句の一つでも言ってやらねぇと気が済まねー…

なんで怪我して入院なんだテメェは。
なんで階段から落ちるんだドアホウ。


なんで徹夜までして千羽も鶴なんか折ってんだ。


ドアホウは俺もか………。


流川は腹の底からため息を吐くとフラフラな足取りで出かける用意をした。


彩子との待ち合わせまであとわずか。寝ていられる時間などなかった。


そして彩子と落ち合い、夏樹の入院する病院へとやって来た。片手にはしっかりと千羽鶴。





「流川。やっぱアンタ1人で会ってきなさいよ。アンタもそうしたいでしょ?」

中へ入ったところで足を止めた彩子は、流川に向き直るとニンマリ笑った。


「じゃ、行ってらっしゃい♪」


なんだそのニヤついた顔は…と思うが、流川も夏樹と二人きりになりたいのが正直な気持ちだった。


早く会いたい気持ちがつのる…。




「505号室…」


流川は彩子に聞いた病室の番号を探した。


503


504


505



「……」


個室か。贅沢だな。


冷静にしてるつもりでも、頭ん中は忙しい。

第一声は何を言おうか。
どんな顔すればいいのか。
千羽鶴なんか作ってきて笑われないだろうか。
ああそうだ、文句の一つでも言ってやらねぇと。


俺はあれこれ考えながら病室の扉を開けた。



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