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「よーし、そこまでー!次交代なー」

先生の言葉。結局三井寿の絵はあれから何の進歩もないまま完成したらしい。

「ぶはっ」

その無様な絵を見たら思わず吹き出してしまった。慌て表情を取り繕うが、三井寿は明らかに立腹。

「悪かったな…絵が下手でよ」
「ごめん笑ったりして」

それでも私のニヤつきは止まない。

「お手並み拝見といこうじゃねーか」

そう言うと三井寿はドンッと机に手を置いた。長い指…血管が浮き出ていてゴツゴツしてるけど、綺麗な手だった。鉛筆を握る自分の手と見比べてみる。私の手よりも一回り以上大きな手。この手ならピアノとか上手く弾けるだろうな、と思った。私はピアノ好きだったけどピアノには不向きな小さい手だったから諦めたけど。あとはバスケットボールとかも掴めたりできそうだ。
三井寿と手を繋いだらどんな感じだろう。この手に触れられたらどんな気持ちになるんだろう。色んな場面が浮かんでくる。

三井寿は恋人に、どんな風にして触れるんだろうか。そんなことを考えたりした。

「なんだよ今度は黙り込みやがって」
「…え、…別に」
「具合でも悪いのか?」
「違う。別になんでもない…」

まずい。恥ずかしくて…ヤバい。顔の温度が上昇していくのが分かる。悟られたくない。私がこんな妄想をしてたなんて…。ひたすら俯いて絵を描くことに集中することにした。変に意識するからあんな妄想してしまうんだ、きっと。

「おい…」
「なに?」

目を合わせずに応える。

「さっきの話だけどよ」
「さっきの話?」

思わず顔を上げてしまう。

「だから友達がどーのこーのって話だよ!てめぇが言ったんだろが」

なによそんな怒らなくたって…

「…ごめん」
「なってもいい」
「え、うそ…ほんとに?」
「好きにすればいんじゃねーの」
「友達になってくれるの?」
「おう」

まさかの返答に驚いた。けど何だかモヤモヤする。嬉しいのに嬉しくない。何でだろってそれは、この手だ。

この手と触れ合うことはきっとないんだろうなって思ったら、寂しい気持ちになってしまった。
友達ってそうゆうこと。
自分からきり出したことなのに、早くも後悔した。じゃあ私はどんなことを望んでるんだろう。

そんなこと何も分からない。


「じゃあさ、まずはちゃんと学校来てよ。そうじゃなきゃ仲良くなれないでしょ?」
「それは俺の気分次第なんだよ」

気分次第で学校に来られちゃ仲良くなりようもない気がするけど、今日は気分良かったのかな。だとしたら私はツイてるのかも知れない。授業終了のベルが鳴ったら、三井寿は鞄を持ってまた教室をふらりと出ていってしまった。次の授業になってもそのまま帰っては来なかった。もう気分が乗らなくなったのかも知れない。

黒板を滑るチョークの音が響く教室に、ポツンと私の隣の席だけが取り残されたまま、いつものように授業は進む。





私は、三井寿、明日も学校来たらいいな、とぼんやり思いながら時々隣の空席を見ていた。






End.

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あきゅろす。
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