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睨まれた上にこの言葉は私の心を深くえぐってくれた。確かにジロジロ見た私も悪いけどさ…酷すぎる…!
私は思いっきり勢いに任せて前を向いてから俯いた。

「三井、今なんの授業か分かってるか?」
「びじゅつダロ」
「ああ何だ知ってたのか。で、今日はデッサンやってもらうからな」
「……」

ジロジロ見るなと言われたので気配を感じるだけだけど、なんだか不満そうだ。
不満なのは私もなのよ。なんで隣がアンタなの。というか…なんで私はミナセなんだろう…マ行の姓名に生まれついたせいで、こんな悲惨な時間を過ごさなければならないなんて。私がマ行でなければ、少なくとも隣同士になることはなかったはずなのに。先生が何やら話している声が微かに聞こえてはくるけれど、私の頭は理不尽な彼の態度への怒りと緊張とで混乱していた。

「おい」
「……」
「おい!」
「…えっ、あ、はいっ」

げ…憎き三井寿にどもってしまった…ナメられたら終わりだわ。と言っても既にナメられているだろうけど…。私はできる限り彼の威圧的な態度に屈しないようにと、目に力を込めた。

「なに」
「なにじゃねぇ。お前とペアなんだよ。さっさと机合わせろよ」
「……!!」

強気でいこうと思ったのに、一言二言交わしただけで既に萎えてしまった。彼の目は私よりも遥かに鋭い。目で殺されそうだ。

私は震える手を隠すようにして素早く机を動かした。完全に体と体は向かい合わせになっている。
緊張と、次に何を言われるのだろうかという恐怖と、もう一つ何か違うドキドキが私を襲った。
初めて間近で見る彼の顔と、恐らくこの至近距離では初めて見られているであろう私の顔…。
恥ずかしくて、読んで字のごとく顔から火がでる勢いで私の体温がみるみるうちに上昇していくのが分かる。心なしか三井寿も気恥ずかしそうに視線をたまに泳がしている。
しばし気まずい空気が流れるが、先生の言葉がそれを緩和した。

「じゃあまずはこっち側の者から描きはじめて、30分したら交代しなさい。いいかー?それでは始めー」

開始の合図で教室は若干静まる。三井寿の視線が私の手に注がれる。何か言葉が欲しい。この沈黙と距離は、1分も耐えられそうにないと思った。せめて何かの会話があれば…そう思って下げていた目線を上げてみる。
鉛筆を動かす度に、長い前髪がさらりと彼の顔を隠す。と同時に優しく甘い香りが漂う。見かけによらず、匂いは優しい。眉が凛々しい。女みたいな髪型なのに、首元は逞しくて男らしい。あ…目、綺麗だな…
漆黒で、深くて、強くて…

「お前さっきから人の顔ジロジロ見やがって…何なんだよ」
「えあ」

…しまった。見とれてしまって、気付けば見つめ合って…いや睨まれていた。

「ご…めん」

ここは素直に謝るしかない…と言うか自然と口から出てきた。また、私の手に三井寿の視線が集まる。手の平は汗でしっとり濡れてしまっている。私の手をどんな風に描いてくれてるんだろうと、期待したが、あまりの雑さに脱力した。それは小学生が描くような落書きそのもので、デッサンにはまるでなっていない。

「これ…私の手?」
「…あ?」
「すごい下手…」
「あ?!」
「……だってこんなにシワだらけじゃないもん私の手」
「っるせっ」

三井寿はあからさまに機嫌が悪くなったようで眉間にシワが寄っている。ああでも、そんなに怖くないかも。なんだか三井寿は照れたように片腕で手元を隠すようにして鉛筆を滑らしている。私に言われた言葉がショックだったのだろうか。なんだ、可愛いところもあるんじゃん、三井寿に少しだけ親近感が沸いた。



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