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私の右隣は今日も空席だ。
三井…寿。
こないだ来たのはいつだっただろう。確か3週間ぐらい前。
三井寿は、あまり学校に来ない。風貌や欠席数が多いことから察するに、彼は不良なんだろう。
ロン毛に高い背に敵意剥き出しの鋭い目付き…それと彼に連るむ面々も相当な強面だ。
私は未だに彼が登校してきた日には授業に集中できない。

近寄りがたいし、怖い。
まぁでも今日も休みだし…あんまり来ないしいいんだけど。
空席の隣を頬杖つきながらぼんやりと見ていたら、次の授業開始のベルが鳴った。

ざわついていた教室が静かになっていく。次の授業は美術だ。ガラッと引き戸が開いて、先生が入ってくる。入ってくるなりこちらを見てこう言った。

「なんだまた三井は休みか?
ったくしょうがない奴だなぁ。今日は来てもらわんと困るんだがなぁ」

来てもらわないと困る?意味深な言葉だ。

「今日は隣同士向き合って、手のデッサンをしてもらう。授業の終わりまでに仕上げるように」

…隣同士向き合って……
つまり三井寿と向き合って…
今日ほど彼の欠席を喜ぶ日はない。休んでくれてありがとう。とてもじゃないけど授業の終わりまで向き合ってなんかいられなかったと思う。



けど私は誰とペアを組めば…?そう思って先生の方を見ると、目があった。

「ああ、水無瀬は前のペアに入れてもらいなさい」

と、いうことらしい。机を向かい合わせにし、各々準備を整えていく。三井寿の机だけポツンと外れたまま。
その寂しげな机をちらりと横目に見て、視界の端に映った人物に私の心臓は驚くほどに跳び跳ねた。
扉のガラスの向こうに、三井寿の姿があったからだ。
彼はガラッと乱暴に教室の引き戸を開けて、凝視する私に気付くと何だよ文句あんのかと言わんばかりの鋭い視線を送ってきた。
もちろん私は目を反らす…。

「お?三井来たか!久しぶりだな」

返答はなく、代わりにドカッと乱暴にカバンを置く音が響いた。

「あんまり休んでばっかりいると出席日数足りなくなるぞ?」

そう言って先生はなんだか嬉しそうに笑っている。この美術の先生は寛容な方で、生徒想いだ。一方の三井寿は着席するなり両足を机の上に投げ出して悪態をついている。

「ジロジロ見てんじゃねぇよブス」

じっと見つめていた顔がこちらを見たかと思うと、彼の口からは信じられないほどの破壊力のある言葉が投げつけられた。
一瞬にして私も、そして周りの空気も凍りついた。



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あきゅろす。
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