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「お前なにしてんの」


洋平の声が頭上から降り注ぐ。
教室の前で座ってたら女の子が先に出て行って、あとから洋平がのそのそと出てきた。


「入れる雰囲気じゃなかったから待ってた。カバン取りに来ただけ。じゃ」
「ちょい待ち」


腕、引かれた。
さっさと帰してちょーだいよ。


「お前泣いてた?」
「泣いてない」
「目、赤いじゃん」
「いいから。どーでも。じゃ、さいなら」


心配してくんなくて、いい。私は弱い女じゃない。一人で結構。アンタを居場所にしてゴメンね。


「お前なんでそんな可愛くねぇの?」
「悪かったな!!可愛くなくて!!アンタも私のこと嫌いならいちいち構ってくれなくていい!!」
「いや、好きだけど。俺は」
「は?!」


好きだけど。洋平は二回言った。それから私はたぶん泣いたんだと思う。混乱しちゃって頭ジンジン熱くて振動してクラクラして一気に全身の毛穴から色んなものが吹き出した感じ。


洋平は泣きじゃくって嗚咽をあげる私を器用な手付きであっさりと抱いて、私はその逞しい胸板を借りてさらに泣いた。もう今出せるもの出しとかなきゃこの先やってけそーになかったから。


「なんだ、お前ちゃんと女じゃん」
「なんだと思ってたのよ」
「いや、たくましいからさ。お前はその辺の野郎より男らしいから」
「最悪だよそれ」


でも涙と鼻水でグシャグシャになった今の私は、きっと最悪だと思う。


「お前は可愛いよ」
「可愛いくない」
「可愛いって」
「しつこい」


素直になれよ、って洋平は言うけど。素直になれない女には、その言葉はタブーなんだって知ってる?余計に素直になんてなれないんだって。


「水無瀬。俺と付き合えよ」
「え?」
「俺と付き合っちゃえばお前も素直に甘えられるじゃん」


洋平は私なんかより一枚も二枚も上手だった。私が欲しかったもの。それは安らぎと甘えられる場所。それを目の前にちらつかされて、どーぞと差し出されたら飛び付いちゃうじゃん。


素直になってみれば驚くほど身も心も軽くなれた。
今までも、こうしていたらもっと楽だったかな。けど精一杯だったんだよね。私はこの学校で息をしてくのが精一杯だった。



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あきゅろす。
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